2017/07/28

字典「子」

「子」

釋義

甲骨文

殷墟甲骨文において「子」は非常によく見られる字であるが、「幼児」「子供」の用法はそこまで多くない。最も多いのは、「子某」のような人名の前(あるいは後)につく用法である。これが具体的に何を表しているのかは諸説紛紛であるが、何らかの地位・役職・称号であるという説が多い。
  1. 名:こ。子女。息子あるいは娘。
    辛丑卜,㱿,貞:帚(婦)好㞢(有)。二月。
     辛丑卜,亘,貞。王占曰:好其㞢(有)。[⿰丨卩](孚)。
    《合集》94正;典賓

    帚(婦)好毋其㞢(有)
     帚(婦)好㞢(有)。二月。
    《合集》13927;典賓

    壬辰卜,㱿,貞:帚(婦)良[其]㞢(有)
     貞:帚(婦)良[不]其
    《合集》13936正;典賓
  2. 名:こ。幼い動物。動物の子供。
    叀𩣫眔[⿲馬立犬]亡災。
    《合集》37514;黄一
  3. 名:称号の一種。人名の前や後につく。
    乙巳卜,[⿻大匚]:㞢(有)宋*〼
    《合集》19921;𠂤大

    丁卯卜,爭,貞:令效先于䀏。二月。
    《合集》3093;賓一

    丙寅卜,兄,貞:□令甗䇂。十月。
    《合集》23536;出一
  4. 動:やしなう。育てる。養育する。
    戊辰卜,爭,貞:勿[⿱至皀]帚(婦)[⿰女食]子。
    《合集》2783;賓三
十二支の1番目には「子」とは別の文字が使われている。
十二支の6番目として現れる字は字形が「子」に似ており後代には混用が見られるものの、初期の甲骨文では区別されている[1]。また、子組卜辞の主催者は「子」を自称しており、上記の「子某」と同じ意味と思われるが、字体は異なっている。
  1. 名:み。十二支の6番目。(用例略)
  2. 名:非王卜辞の主催者。
    甲申卜,貞:
    《合集》20857;婦女

    己亥,卜貞:我又(有)乎出?[⿰丨卩](孚)。
    《合集》21583;子組

    辛亥卜:曰:余丙速?
    《花東》475;花子

金文

周金文では「其子子孫孫萬年永寶用」の決まり文句が非常によく見られる。
  1. 名:こ。子女。息子あるいは娘。
    則尚(常)安永宕乃心,安永𧟟(襲)[⿹戈冬]身。
    [⿹戈冬]鼎,《銘圖》02489;周中

    虢宣公白乍(作)𬯚(尊)鼎。
    虢宣公子白鼎,《銘圖》02308;周晩

    余畢公之孫、郘(吕)白(伯)之
    郘𮮝鐘,《銘圖》15570-15582;春晩
  2. 名:男子の尊称。一般に姓の後につけるが、齊国では前後につける。
    不录(禄)嗌
    作册嗌卣,《銘圖》13340;周中

    吴季之子逞之兀(元)用鐱(劍)。
    吴季子之子逞劍,《銘圖》17950;春晩

    禾(和)
    子禾子釜,《銘圖》18818;戰早
  3. 名:称号の一種。族名・人名の前後につく。
    蝠。
    子蝠鼎,《銘圖》00470;商晩

    媚。
    子媚簋,《銘圖》03650;商晩

    雨。
    子雨觚,《銘圖》09316;商晩
  4. 名:族名。
    子觚,《銘圖》08887-08894;商晩

    父丁。
    子父丁爵,《銘圖》07818;商晩

    父乙。
    子父乙鼎,《銘圖》00776;周早
  5. 名:姓。また、人名用字。(用例略)
  6. 名:み。十二支の6番目。=巳 (用例略)
  7. 動:いつくしむ。慈愛する。=慈
    懿,父廼是子(慈)
    沈子也簋蓋,《銘圖》05384;周早
  8. 「子子孫孫」:子孫。あとの世代。「孫子」「子子孫」等とも。
    其萬年子﹦孫﹦其永寶用。
    郭伯捱簋,《銘圖》05203;周早

    子﹦孫﹦萬年永寶用。
    庚贏卣,《銘圖》13337-13338;周中

    逨㽙(畯)臣天子﹦孫﹦永寶用亯(享)。
    逨盤,《銘圖》14543;周晩
  9. 「子𠇷(姓)」:子孫。
    𬕝﹦(肅肅)義政,[⿰亻⿱王子](保)𫊣(吾)子𠇷(姓)。
    𦅫鎛,《銘圖》15828;春中
なお、十二支の1番目には「子」とは別の文字が使われている。

楚簡

楚簡では人名用字での例が多い。また、十二支の1番目として用いられ、6番目には用いられない。
  1. 名:こ。子女。息子あるいは娘。
    𢝫(喜)之庚一夫,凥(處)郢里,司馬徒箸(書)之。
    包山《集箸》7

    古(故)夫夫,婦婦,父父,子子,君君,臣臣,六者客(各)行其戠(職)。
    郭店《六德》23

    逆上汌(均)水,見盤庚之,凥(處)于方山。
    清華壹《楚居》1
  2. 名:尊称。姓の後につける。(用例略)
    また、官職名の前につける。
    司馬。
    包山《集箸言》145

    陵尹。
    包山《集箸》156

    左尹。
    包山《祭禱》224
  3. 名:孔子。
    曰:又(有)𬪇(國)者章好章亞(惡),以視民厚,則民青(情)不𥾐(忒)。
    郭店《緇衣》2

    曰:又(有)國者章𡥆(好)章惡,以眂(視)民厚,則民情不弋(忒)。
    上博一《緇衣》1
  4. 名:ね。十二支の1番目。(用例略)
  5. 名:いつくしみ。慈愛。=慈
    羕(養)心於子(慈)俍(良),忠信日嗌(益)而不自智(知)也。
    郭店《尊德義》21

    子(慈)生於眚(性),易生於子(慈)
    郭店《語叢二》23
  6. 名:めす。雌牛。また、雌の家畜。=牸
    大首之子(牸)䮑馬爲右[⿰馬𤰇]。
    曾侯乙《乘馬》147

    司馬上子(牸)爲左驂。
    曾侯乙《乘馬》151

    建巨之子(牸)爲右驂。
    曾侯乙《乘馬》172
  7. 「子女」:むすめ。美しい女性。
    母(毋)㤅(愛)貨資子女。
    上博四《曹沫之陣》2
  8. 「子犯」「子餘」「子産」「子儀」など:人名。(用例略)
    「子夏」「子羔」「子貢」「子羽」「子路」:人名。みな孔子の弟子。
    子[⿱日它](夏)曰:“敢[⿱宀𦖞](問)可(何)胃(謂)五至?”
    上博二《民之父母》2

    子羔曰:“可(何)古(故)以𠭁(得)帝?”
    上博二《子羔》1

    子贛(貢)曰:“否。”
    上博二《魯邦大旱》3

    子羽𦖞(問)於子贛(貢)曰:“中(仲)尼與𫊟(吾)子産䈞(孰)臤(賢)?”
    上博五《君子爲禮》11

    子𮞑(路)𨓹(往)[⿸虎口](乎)子。
    上博五《弟子問》19

釋形

大きく分けてABCDの四種の字体がある。うちBとCはかなり早くに区別が失われた。四種とも小さい子供の象形と考えられている。ただし、AとDが{子供・幼児}の意味に用いられた例はないことには注意しなければならない。
【殷墟甲骨文】
A:{十二支の第一位(ね)}に用いられる。A3が最も象形的な形で、A2やA1はそれを簡単にした形だと思われる。賓組や歷組ではA1の字体が受け継がれたが、後代の何組や黄組では複雑な字体に逆戻りしている。
BC:𠂤組甲骨文では{十二支の第六位(み)}にBを、{子供・幼児}にCを用いており、「子」に従う字もCの形であった。しかし後に混用され、子組ではほぼ全てB、賓組ではほぼ全てC、歷組ではB・Cの両方を区別なく用いている。最終的に黄組ではBが主に用いられている。
D:武丁期にみられる人名である。説文古文「㜽」と近形であることから、「子」の異体字とされている。ただし、この字は両周以降には見られないことから、説文古文「㜽」と直接の関係があるかどうかは慎重にならなければならない。
【西周金文】
A:甲骨文の字形よりさらに複雑な字体が用いられている。
BC:周代には字形変化があまりないが、時代が下るにつれて若干両腕が上がってきたり、上部が丸みのある四角形から後の三角形に近づいてきている。
【戦国文字】
戰國文字は多く上部が三角形になっている。素早く書いたものには上部三角形の一辺と下部縦画を一画とした字形が見られる。
晋系文字は腕を二画で書く特徴があり、清華叁《良臣》はこの特徴をよく受け継いでいる。また上博五《季庚子問於孔子》や、清華貳《繫年》の一部にもこの字体が見られる。
秦系文字は両腕を曲げた形が多い。
【秦漢】
秦隷でほぼ現在と同形となっている。篆書の面影を残した腕を曲げた字体も少数見られるが、後代には廃れた。

《康熙字典》では説文籀文を楷書化した字が多く収録されている。「𩐍」は誤って「自」の異体字とされているが、これも「子」の説文籀文を楷書化した字である[2]。また「𣕓」は誤って「子」の異体字とされているが、別字である。

釋詞

「子」声字は「子供」「小さい」「養育」義を共有する。
  • 字,《説文》十四篇下《子部》「乳也。」(310上),《集韻》平聲《之韻》津之切「養也。」(53)
  • 孜,《廣韻》平聲《之韻》子之切「力篤愛也。」(63)
  • 秄,《説文》七篇上《禾部》「壅禾本。」(145上)《繫傳》「秄之言字也,養之也。」(142上)
「茲」「絲」声字は音義とも近く、また通仮例も多く、同源である。


2017/07/22

字典「甾」

「甾」

釋義

甲骨文

殷墟甲骨文における「甾」とされている字は黄組に数例見えるのみである。
  1. 名:人名用字。
    〼妥余一人□,余其比田正□□盂方〼
    《合補》11242;黄二

    〼,余其比發戔,亡又〼
    《合集》36347;黄二

    〼發戔亡〼
    《合集》36348;黄二

金文

金文における「甾」とされている字は二例のみである。
  1. 名:人名。
    乍(作)父己寶𬯚(尊)彝,南宫。
    甾觶,《銘圖》10646;周中
  2. 名:器の一種。=鼒
    子䧅□之孫〼行(鼒)。
    子䧅□之孫鼎,《銘圖》01744;春秋

秦簡

秦簡における「甾」とされている字は二例のみである。
  1. 名:人名。
    等非故縱弗論殹,它如劾。
    里耶秦簡8-1107

    等當贖耐,是即敬等縱弗論殹。
    里耶秦簡8-1133

釋形

「甾」字の用例は少ない。字形は「其」に似ており、《六書故》卷二十九「𠙹,竹器也。」とある通り竹製の器物の一種の象形と考えられる(季旭昇)。《説文》十二篇下《甾部》「東楚名缶曰𠙹。」(269上)や子䧅□之孫鼎における用法などは引伸義である。
字書類では説文小篆を楷書化した「𠙹」の字体が主に用いられる。また《説文》では「菑」字の古文として「甾」が掲載されており、後代の字書類もこれに従っている。

古くはA・Bがその字形から「甾」かつ「西」であり、両字は同源分化字と考えられていた(李孝定[1]等)。ただし、形が似ていること以外にA・Bを同一視する根拠はない。また于省吾[2]はB・Cを「甾」としたが、陳剣[3]によってCは「由」であると修正された。蘇建洲[4]は「甾」に従う字との字形比較からBを「甾」とした。したがって現在はA=「西」、B=「甾」、C=「由」とするのが通説である。

釋詞

「甾」声字は「黒色」「死」義を共有し、おそらく{災}と同源である。
  • 菑,《詩・大雅・皇矣》「作之屏之,其菑其翳。」 毛傳「木立死曰菑。」,《詩・小雅・采芑》「薄言采芑,于彼新田,于此菑畝。」孔穎達疏「菑者,災也。
  • 淄,《史記・夏本紀》「堣夷既略,濰、淄其道。」張守節正義引《括地志》「俗傳云:禹理水功畢,土石黑,數里之中波若漆,故謂之淄水也。
  • 椔,《爾雅・釋木》「立死,椔。」,《廣韻》平聲《之韻》側持切「木立死。」(62)
  • 䅔,《玉篇》卷十五《禾部》「禾死也。」(290)
  • 緇,《説文》十三篇《糸部》「帛黑色也。」(275上)
  • 輜,《釋名・釋車》「輜車,載輜重、臥息其中之車也。」,《集韻》平聲《之韻》莊持切引《字林》「載衣物車,前後皆蔽,若今庫車。」(51)
  • 鯔,《本草綱目・鱗之三》「時珍曰:鯔,色緇黑,故名。


2017/07/16

字典「來」

「來」

釋義

甲骨文

「来る」の意味に用いられる。その対象は人だけでなく、敵国の攻撃・天候・災害など多岐にわたる。対象によって「~來」と「來~」の形がある。
「來+時間詞」の形で「次にやってくるその時間」を表す用法がある。「来年」「来週」などと同用法である。殷墟甲骨文では「來+干支」の形が多い。
  1. 動:くる。きたる。遠くから近くにやってくる。
    《花東》481;花二
    ①才(在)𫦎(割)自斝。
    《合集》1027正;賓一
    ②己未卜,㱿,貞:缶其見王。一月。
     己未卜,㱿,貞:缶不其見王。
    《合集》2763反;典賓
    ③帚井
    《合集》36509;黄一
    ④隹(惟)王正(征)盂方白(伯)炎。
  2. 動:もたらす。貢納する。
    《合集》9200反;賓一
    ①我卅。
    《合集》152反;賓一
    ②奠十。
    《合集》945正;賓一
    ③貞:古犬。
     古不其犬。
     古馬。
     不其馬。
  3. 形:将来の。日時・時間を表す言葉をあとにおいて「次に来る~」を表す。
    《合集》6478;典賓
    ①貞:乙亥㞢(侑)于祖乙。
    《合集》12466正;典賓
    ②貞:乙酉其雨。
     貞:庚寅其雨。
     貞:庚寅不其雨。
    《村中南》403.2;無一
    ③于辛巳𫹉,受禾。
  4. 名:むぎ。小麦。
    《合集》914;賓一
    ①辛亥卜,貞:[咸]穫
  5. 名:地名。
    《合集》20907;𠂤小
    ①己未卜:今日不雨。才(在)
    《合集》19471;賓三
    ②貞:从至于皿。

金文

西周金文では多くの場合後ろに他の動詞をくっつけて用いられる。直訳すると「来て~する」「~しにくる」或いは「~してくる」となるが、実際は文中においてあまり意味をなさない。
  1. 動:くる。きたる。遠くから近くにやってくる。
    录簋,《銘圖》05115;周中
    ①白(伯)[⿰呇隹](雝)父自㝬。
    動:きて~する。~しにくる。他の動詞をあとに続けて用いる。
    小臣艅尊,《銘圖》11785;商晩
    ②隹(唯)王正(征)人(夷)方。
    厚趠鼎,《銘圖》02352;周早
    ③隹(唯)王各(格)于西周年。
    史牆盤,《銘圖》14541;周中
    ④𣁋(微)史剌(烈)且(祖),廼見武王。
    五年琱生簋,《銘圖》05340;周晩
    ⑤琱生又(有)事,召合事。
  2. 形:将来の。日時・時間を表す言葉をあとにおいて「次に来る~」を表す。
    「來歲」:来年。
    曶鼎,《銘圖》02515;周中
    ①[若]來歲弗賞(償),則付卌秭。
  3. 名:人名用字。
    邾來隹鼎,《銘圖》02885;春早
    ①鼄(邾)隹乍(作)鼎。
  4. 「來歸」:帰ってくる。
    不𡢁簋,《銘圖》05387;周晩
    ①余來歸獻禽(擒)。

楚簡

九店楚簡《簿》では「檐」「⿰禾坐」「⿰禾癸」などともに、「⿱崔田」を数える量詞として用いられている。「⿱崔田」は「㽯(畦)」の異体字と考えられている。
卜筮簡では前辞に「來歲」が用いられている。
なお、楚簡では主に「⿱來止」「逨」の字体が用いられる。上博三《周易》では「⿰木⿱來止」「⿱萊止」も用いられているが、いずれも今本では「來」に作る。
  1. 動:くる。きたる。遠くから近くにやってくる。
    郭店《語叢四》2
    ①往言[⿰昜刂](傷)人,[⿱來止](來)言[⿰昜刂](傷)𠮯(己)。
    包山《集箸言》132反
    ②[⿱衰刖]尹傑[⿰馬𡉣](馹)從郢以此等(志)[⿱來止](來)
    上博三《周易・比》9
    ③不寍(寧)方逨(來),𨒥(後)夫凶。
    清華貳《繋年》第五章25
    ④君[⿱來止](來)伐我〓(我,我)𨟻(將)求𫻲(救)於[⿰㣇阝](蔡),君[⿱女一](焉)敗之。
  2. 名:卦の一つ。「震」の別名。=釐
    清華肆《筮法・四季吉凶・春》37
    [⿱來止](來)巽大吉。
    清華肆《筮法・四季吉凶・夏》37
    [⿱來止](來)巽少(小)吉。
    清華肆《筮法・四季吉凶・冬》38
    [⿱來止](來)巽大凶。
  3. 名:詩の篇題。《詩經・周頌》に収められている。=賚
    郭店《性自命出》25
    ①雚(觀)《[⿱來止](賚)》、《武》,則齊女(如)也斯[⿱乍又](作)。
    郭店《性自命出》28
    《[⿱來止](賚)》、《武》樂取,《卲(韶)》、《[⿹暊止](夏)》樂情。
    上博一《性情論》15
    ③[⿱雚目](觀)《[⿱來止](賚)》、《武》,則[⿱齊心](齊)女(如)也斯[⿱乍又](作)。
  4. 名:地名用字。
    州来国は春秋時代の小国。
    清華貳《繋年》第五章25
    ①五(伍)雞𨒫(將)吴人以回(圍)州[⿱來止](來)
    清華貳《繋年》第十五章82
    ②吴縵(洩)用(庸)以𠂤(師)逆[⿰㣇阝](蔡)卲(昭)侯,居于州[⿱來止](來)
    棘津は黄河の渡しの一つ。
    郭店《窮達以時》4-5
    ③郘(呂)𡔞(望)爲牂(臧)[⿱來止](棘)𣿕(津),戰(守)監門[⿱來止](棘)地。
  5. 量:「⿱崔田」に対して用いられる数量単位。
    九店《簿》1
    ①[⿱崔田]二[⿰禾坐]又五,敔[⿰禾毋]之五檐(擔)。
    九店《簿》3
    ②[⿱崔田]五[⿰禾癸]又五,敔[⿰禾毋]之十檐(擔)一檐(擔)。
    九店《簿》4
    ③……方七,麇一,[⿱崔田]五[⿰禾癸]又六,[⿱崔田]四……
  6. 「來各(格)」:やってくる。
    清華壹《耆夜》8
    ①不(丕)㬎(顯)逨(來)各(格)[⿱金心](歆)氒(厥)𬪭(禋)明(盟)。
    清華叁《説命中》2
    來各(格)女(汝)敚(説),聖(聽)戒朕言,[⿰氵軫](慎)之于乃心。
  7. 「來歸」:帰ってくる。
    九店《日書・告武夷》44
    ①囟(思)某逨(來)䢜(歸)飤(食)故□。
  8. 「來𫻴(歲)」:来年。
    天星觀《卜筮祭禱》9-1
    ①從十月以至[⿱來止](來)𫻴(歲)之十月。
    葛陵《卜筮祭禱》甲三117、120
    ②[⿱夜示](𬒵)之月以至[⿱來止](來)𫻴(歲)之[⿹暊虫](夏)[⿱夜示](𬒵)。
    葛陵《卜筮祭禱》乙一19
    ③自[⿹暊虫](夏)[⿱夜示](𬒵)之月以至[⿱來止](來)𫻴(歲)[⿹暊虫](夏)[⿱夜示](𬒵)。

釋形

麦の象形で、「麥」の初文。しかし麦を意味する用例は少なく、ほとんどが到来の意味に用いられている。
賓組甲骨文では上部の短横画を省略した形を用いる。無名組では中部の画を反転させた形が見られる。黄組には縦画の上部を曲げた形が見られる。戦国楚簡の文字は縦画下部に短横画を加えたものが多い。
戦国時代の燕・晋・楚国では意符として「止」「彳」「辵」を加えた字体が見られる。北魏には「走」を加えた字体も見られる。
後漢以降「來」より「来」の字体が用いられたが、開成石經では「來」の字体が用いられ、そのまま「來」が康熙字典体となっている。

釋詞

{麦}が本義で、{到来}は仮借義とするのが一般的であるが、麦が外来植物であることからの引伸義とする説もある。



2017/07/02

字典「里」

「里」

釋義

金文

西周金文では周王朝の治めるある範囲の土地を指し、管理者は「里君」と呼ばれた。
  1. 名:国有の一定範囲の土地。
    召圜器,《銘圖》19255;周早
    ①休王自㝅事(使)賞畢土方五十
    九年衛鼎,《銘圖》02496;周中
    ①廼(乃)舍(捨)裘衛林𡥨
    大簋蓋,《銘圖》05345;周晩
    ②余既易(錫)大乃
    大簋蓋,《銘圖》05345;周晩
    ③豖㠯(以)𬑪(睽)[⿰舟頁](履)大易(錫)
    また齊国では「○○里」を地名として用いる。
    成陽辛城里戈,《銘圖》16929-16930;春晩
    ④成𪤝(陽)辛城里鈛(戈)。
    平陽高馬里戈,《銘圖》16931;春晩
    ④平𪤝(陽)高馬里鈛(戈)。
  2. 名:人名あるいは地名用字。
    今永里倉鼎,《銘圖》01346;戰晩
    ①今永倉。
  3. 名:うら。衣服の裏地。=裏
    伯振鼎,《銘圖》02480;周中
    ①冟(冪)𧙀里(裏)幽。
  4. 量:長さの単位。一里は三百歩。
    中山王鼎,《銘圖》02517;戰中
    ①方𬣏(數)百里,[⿰柬刂](列)城𬣏(數)十。
  5. 「里君」:里の統治・管理者。
    夨令方彝,《銘圖》13548;周早
    ①眔卿𬀈(事)寮、眔者(諸)尹、眔里君、眔百工、眔者(諸)𥎦(侯)。
    史頌簋,《銘圖》05259-05267;周晩
    ②[⿰氵⿴囗𬑔](姻)友、里君、百生(姓)。
  6. 「里人」:「里君」と同義。
    𬹜簋,《銘圖》05242;周晩
    ①命女(汝)𤔲(司)成周里人眔者(諸)𥎦(侯)、大亞,𡀚(訊)訟罰。

楚簡

包山簡や新蔡葛陵簡では行政区での用法が、郭店簡では「理」としての用法が多く見られる。
  1. 名:行政区域の単位。「○○里」で地名を表す用法もある。
    包山《疋獄》92
    ①𨛡(宛)[⿱蔯土](陳)午之人藍訟登(鄧)[⿱命貝](令)尹之人苛[⿰畀⿱黽甘]。
    上博六《天子建州》甲1
    ②夫〓(大夫)建之㠯(以)
    上博六《天子建州》乙1
    ③夫〓(大夫)建之㠯(以)
  2. 名:ことわり。道理。=理
    郭店《成之聞之》31
    ①天[⿱夂止](降)大[⿱尚示](常),以里(理)人侖(倫)。
  3. 名:姓。里克は晋の将軍。
    清華貳《繫年》第六章32
    ①亓(其)夫〓(大夫)之克乃殺奚𬁼(齊),而立亓(其)弟悼子,之克或(又)殺悼子。
  4. 動:おさめる。理する。整える。ただす。=理
    郭店《性自命出》17
    里(理)亓(其)青(情)而出内(入)之。
    上博一《性情論》10
    里(理)亓(其)情而出内(入)之。
    郭店《語叢一》32
    ③善里(理)而句(後)樂生。
    郭店《語叢一》54
    ④臤(賢)者能里(理)之。
  5. 量:長さの単位。
    上博二《容成氏》7
    ①於是虖(乎)方百之𫲹(中)。
    上博四《柬大王泊旱》13
    ②方若肰(然)
    上博七《凡物流形》甲15
    ③坐而思之,每(謀)於千
  6. 「里公」:里の統治・管理を行う官吏。
    包山《受幾》22
    ①䢵(鄖)司馬之州加公李瑞、里公[⿰隓阝](隋)[⿱目又](得)受[⿱几日](幾)。
    包山《所屬》162
    ②[⿰亙阝](期)思公之州里公[⿸虍㕣](虐)。
    包山《集箸言》122
    里公邞眚(省)、士尹紬[⿱𠦉診](慎)[⿱反止](返)孑。

釋形

「田」と「土」に従う。人の住む場所を表す。その字形は先秦からほとんど変わっていない。

釋詞

「里」声字は「内側」「内にしまう」「隠す」義を共有する。

  • 裏,《説文》八篇上《衣部》「衣内也。」(168上)
  • 貍,《説文》九篇下《豸部》「伏獸。」(196上)
  • 埋、薶,《廣韻》平聲《皆韻》莫皆切「瘞也,藏也。」(95)

また水底に生息する魚を「鯉」と称する。人をより集めたのが「里」である。
「里」の居住の義から「理」のおさめるの義が派生した。

裏の縫い目・里の道・鯉の鱗紋などから「みち」が原義であるとする説もある。