2017/07/16

字典「來」

「來」

釋義

甲骨文

「来る」の意味に用いられる。その対象は人だけでなく、敵国の攻撃・天候・災害など多岐にわたる。対象によって「~來」と「來~」の形がある。
「來+時間詞」の形で「次にやってくるその時間」を表す用法がある。「来年」「来週」などと同用法である。殷墟甲骨文では「來+干支」の形が多い。
  1. 動:くる。きたる。遠くから近くにやってくる。
    《花東》481;花二
    ①才(在)𫦎(割)自斝。
    《合集》1027正;賓一
    ②己未卜,㱿,貞:缶其見王。一月。
     己未卜,㱿,貞:缶不其見王。
    《合集》2763反;典賓
    ③帚井
    《合集》36509;黄一
    ④隹(惟)王正(征)盂方白(伯)炎。
  2. 動:もたらす。貢納する。
    《合集》9200反;賓一
    ①我卅。
    《合集》152反;賓一
    ②奠十。
    《合集》945正;賓一
    ③貞:古犬。
     古不其犬。
     古馬。
     不其馬。
  3. 形:将来の。日時・時間を表す言葉をあとにおいて「次に来る~」を表す。
    《合集》6478;典賓
    ①貞:乙亥㞢(侑)于祖乙。
    《合集》12466正;典賓
    ②貞:乙酉其雨。
     貞:庚寅其雨。
     貞:庚寅不其雨。
    《村中南》403.2;無一
    ③于辛巳𫹉,受禾。
  4. 名:むぎ。小麦。
    《合集》914;賓一
    ①辛亥卜,貞:[咸]穫
  5. 名:地名。
    《合集》20907;𠂤小
    ①己未卜:今日不雨。才(在)
    《合集》19471;賓三
    ②貞:从至于皿。

金文

西周金文では多くの場合後ろに他の動詞をくっつけて用いられる。直訳すると「来て~する」「~しにくる」或いは「~してくる」となるが、実際は文中においてあまり意味をなさない。
  1. 動:くる。きたる。遠くから近くにやってくる。
    录簋,《銘圖》05115;周中
    ①白(伯)[⿰呇隹](雝)父自㝬。
    動:きて~する。~しにくる。他の動詞をあとに続けて用いる。
    小臣艅尊,《銘圖》11785;商晩
    ②隹(唯)王正(征)人(夷)方。
    厚趠鼎,《銘圖》02352;周早
    ③隹(唯)王各(格)于西周年。
    史牆盤,《銘圖》14541;周中
    ④𣁋(微)史剌(烈)且(祖),廼見武王。
    五年琱生簋,《銘圖》05340;周晩
    ⑤琱生又(有)事,召合事。
  2. 形:将来の。日時・時間を表す言葉をあとにおいて「次に来る~」を表す。
    「來歲」:来年。
    曶鼎,《銘圖》02515;周中
    ①[若]來歲弗賞(償),則付卌秭。
  3. 名:人名用字。
    邾來隹鼎,《銘圖》02885;春早
    ①鼄(邾)隹乍(作)鼎。
  4. 「來歸」:帰ってくる。
    不𡢁簋,《銘圖》05387;周晩
    ①余來歸獻禽(擒)。

楚簡

九店楚簡《簿》では「檐」「⿰禾坐」「⿰禾癸」などともに、「⿱崔田」を数える量詞として用いられている。「⿱崔田」は「㽯(畦)」の異体字と考えられている。
卜筮簡では前辞に「來歲」が用いられている。
なお、楚簡では主に「⿱來止」「逨」の字体が用いられる。上博三《周易》では「⿰木⿱來止」「⿱萊止」も用いられているが、いずれも今本では「來」に作る。
  1. 動:くる。きたる。遠くから近くにやってくる。
    郭店《語叢四》2
    ①往言[⿰昜刂](傷)人,[⿱來止](來)言[⿰昜刂](傷)𠮯(己)。
    包山《集箸言》132反
    ②[⿱衰刖]尹傑[⿰馬𡉣](馹)從郢以此等(志)[⿱來止](來)
    上博三《周易・比》9
    ③不寍(寧)方逨(來),𨒥(後)夫凶。
    清華貳《繋年》第五章25
    ④君[⿱來止](來)伐我〓(我,我)𨟻(將)求𫻲(救)於[⿰㣇阝](蔡),君[⿱女一](焉)敗之。
  2. 名:卦の一つ。「震」の別名。=釐
    清華肆《筮法・四季吉凶・春》37
    [⿱來止](來)巽大吉。
    清華肆《筮法・四季吉凶・夏》37
    [⿱來止](來)巽少(小)吉。
    清華肆《筮法・四季吉凶・冬》38
    [⿱來止](來)巽大凶。
  3. 名:詩の篇題。《詩經・周頌》に収められている。=賚
    郭店《性自命出》25
    ①雚(觀)《[⿱來止](賚)》、《武》,則齊女(如)也斯[⿱乍又](作)。
    郭店《性自命出》28
    《[⿱來止](賚)》、《武》樂取,《卲(韶)》、《[⿹暊止](夏)》樂情。
    上博一《性情論》15
    ③[⿱雚目](觀)《[⿱來止](賚)》、《武》,則[⿱齊心](齊)女(如)也斯[⿱乍又](作)。
  4. 名:地名用字。
    州来国は春秋時代の小国。
    清華貳《繋年》第五章25
    ①五(伍)雞𨒫(將)吴人以回(圍)州[⿱來止](來)
    清華貳《繋年》第十五章82
    ②吴縵(洩)用(庸)以𠂤(師)逆[⿰㣇阝](蔡)卲(昭)侯,居于州[⿱來止](來)
    棘津は黄河の渡しの一つ。
    郭店《窮達以時》4-5
    ③郘(呂)𡔞(望)爲牂(臧)[⿱來止](棘)𣿕(津),戰(守)監門[⿱來止](棘)地。
  5. 量:「⿱崔田」に対して用いられる数量単位。
    九店《簿》1
    ①[⿱崔田]二[⿰禾坐]又五,敔[⿰禾毋]之五檐(擔)。
    九店《簿》3
    ②[⿱崔田]五[⿰禾癸]又五,敔[⿰禾毋]之十檐(擔)一檐(擔)。
    九店《簿》4
    ③……方七,麇一,[⿱崔田]五[⿰禾癸]又六,[⿱崔田]四……
  6. 「來各(格)」:やってくる。
    清華壹《耆夜》8
    ①不(丕)㬎(顯)逨(來)各(格)[⿱金心](歆)氒(厥)𬪭(禋)明(盟)。
    清華叁《説命中》2
    來各(格)女(汝)敚(説),聖(聽)戒朕言,[⿰氵軫](慎)之于乃心。
  7. 「來歸」:帰ってくる。
    九店《日書・告武夷》44
    ①囟(思)某逨(來)䢜(歸)飤(食)故□。
  8. 「來𫻴(歲)」:来年。
    天星觀《卜筮祭禱》9-1
    ①從十月以至[⿱來止](來)𫻴(歲)之十月。
    葛陵《卜筮祭禱》甲三117、120
    ②[⿱夜示](𬒵)之月以至[⿱來止](來)𫻴(歲)之[⿹暊虫](夏)[⿱夜示](𬒵)。
    葛陵《卜筮祭禱》乙一19
    ③自[⿹暊虫](夏)[⿱夜示](𬒵)之月以至[⿱來止](來)𫻴(歲)[⿹暊虫](夏)[⿱夜示](𬒵)。

釋形

麦の象形で、「麥」の初文。しかし麦を意味する用例は少なく、ほとんどが到来の意味に用いられている。
賓組甲骨文では上部の短横画を省略した形を用いる。無名組では中部の画を反転させた形が見られる。黄組には縦画の上部を曲げた形が見られる。戦国楚簡の文字は縦画下部に短横画を加えたものが多い。
戦国時代の燕・晋・楚国では意符として「止」「彳」「辵」を加えた字体が見られる。北魏には「走」を加えた字体も見られる。
後漢以降「來」より「来」の字体が用いられたが、開成石經では「來」の字体が用いられ、そのまま「來」が康熙字典体となっている。

釋詞

{麦}が本義で、{到来}は仮借義とするのが一般的であるが、麦が外来植物であることからの引伸義とする説もある。



2017/07/02

字典「里」

「里」

釋義

金文

西周金文では周王朝の治めるある範囲の土地を指し、管理者は「里君」と呼ばれた。
  1. 名:国有の一定範囲の土地。
    召圜器,《銘圖》19255;周早
    ①休王自㝅事(使)賞畢土方五十
    九年衛鼎,《銘圖》02496;周中
    ①廼(乃)舍(捨)裘衛林𡥨
    大簋蓋,《銘圖》05345;周晩
    ②余既易(錫)大乃
    大簋蓋,《銘圖》05345;周晩
    ③豖㠯(以)𬑪(睽)[⿰舟頁](履)大易(錫)
    また齊国では「○○里」を地名として用いる。
    成陽辛城里戈,《銘圖》16929-16930;春晩
    ④成𪤝(陽)辛城里鈛(戈)。
    平陽高馬里戈,《銘圖》16931;春晩
    ④平𪤝(陽)高馬里鈛(戈)。
  2. 名:人名あるいは地名用字。
    今永里倉鼎,《銘圖》01346;戰晩
    ①今永倉。
  3. 名:うら。衣服の裏地。=裏
    伯振鼎,《銘圖》02480;周中
    ①冟(冪)𧙀里(裏)幽。
  4. 量:長さの単位。一里は三百歩。
    中山王鼎,《銘圖》02517;戰中
    ①方𬣏(數)百里,[⿰柬刂](列)城𬣏(數)十。
  5. 「里君」:里の統治・管理者。
    夨令方彝,《銘圖》13548;周早
    ①眔卿𬀈(事)寮、眔者(諸)尹、眔里君、眔百工、眔者(諸)𥎦(侯)。
    史頌簋,《銘圖》05259-05267;周晩
    ②[⿰氵⿴囗𬑔](姻)友、里君、百生(姓)。
  6. 「里人」:「里君」と同義。
    𬹜簋,《銘圖》05242;周晩
    ①命女(汝)𤔲(司)成周里人眔者(諸)𥎦(侯)、大亞,𡀚(訊)訟罰。

楚簡

包山簡や新蔡葛陵簡では行政区での用法が、郭店簡では「理」としての用法が多く見られる。
  1. 名:行政区域の単位。「○○里」で地名を表す用法もある。
    包山《疋獄》92
    ①𨛡(宛)[⿱蔯土](陳)午之人藍訟登(鄧)[⿱命貝](令)尹之人苛[⿰畀⿱黽甘]。
    上博六《天子建州》甲1
    ②夫〓(大夫)建之㠯(以)
    上博六《天子建州》乙1
    ③夫〓(大夫)建之㠯(以)
  2. 名:ことわり。道理。=理
    郭店《成之聞之》31
    ①天[⿱夂止](降)大[⿱尚示](常),以里(理)人侖(倫)。
  3. 名:姓。里克は晋の将軍。
    清華貳《繫年》第六章32
    ①亓(其)夫〓(大夫)之克乃殺奚𬁼(齊),而立亓(其)弟悼子,之克或(又)殺悼子。
  4. 動:おさめる。理する。整える。ただす。=理
    郭店《性自命出》17
    里(理)亓(其)青(情)而出内(入)之。
    上博一《性情論》10
    里(理)亓(其)情而出内(入)之。
    郭店《語叢一》32
    ③善里(理)而句(後)樂生。
    郭店《語叢一》54
    ④臤(賢)者能里(理)之。
  5. 量:長さの単位。
    上博二《容成氏》7
    ①於是虖(乎)方百之𫲹(中)。
    上博四《柬大王泊旱》13
    ②方若肰(然)
    上博七《凡物流形》甲15
    ③坐而思之,每(謀)於千
  6. 「里公」:里の統治・管理を行う官吏。
    包山《受幾》22
    ①䢵(鄖)司馬之州加公李瑞、里公[⿰隓阝](隋)[⿱目又](得)受[⿱几日](幾)。
    包山《所屬》162
    ②[⿰亙阝](期)思公之州里公[⿸虍㕣](虐)。
    包山《集箸言》122
    里公邞眚(省)、士尹紬[⿱𠦉診](慎)[⿱反止](返)孑。

釋形

「田」と「土」に従う。人の住む場所を表す。その字形は先秦からほとんど変わっていない。

釋詞

「里」声字は「内側」「内にしまう」「隠す」義を共有する。

  • 裏,《説文》八篇上《衣部》「衣内也。」(168上)
  • 貍,《説文》九篇下《豸部》「伏獸。」(196上)
  • 埋、薶,《廣韻》平聲《皆韻》莫皆切「瘞也,藏也。」(95)

また水底に生息する魚を「鯉」と称する。人をより集めたのが「里」である。
「里」の居住の義から「理」のおさめるの義が派生した。

裏の縫い目・里の道・鯉の鱗紋などから「みち」が原義であるとする説もある。


2017/06/28

字典「迺(廼)」

「迺(廼)」

釋義

甲骨文

前後をつなぐ副詞として用いられる。
  1. 副:すなわち。そして。そこで。=乃
    庚辰卜,王:祝父辛羊豕,𫹉父〼
    《合集》19921;𠂤小

    于壬王田,亡𢦔(災)。
    《合集》28609;無一
  2. 名:地名。
    〼步于
    《合集》8270;賓一

    王㞷(往)于
    《合集》33159;歷一

金文

前後を接続する副詞(あるいは接続詞)として用いられる。前後の句同士は因果関係や、単純な時間の前後、仮定と結果など多岐にわたる。
  1. 副:すなわち。そして。そこで。
    接:すなわち。そして。そこで。
    才(在)𦮘(艿),白(伯)懋父罰得、𫷢、古三百寽(鋝)。
    師旂鼎,《銘圖》02462;周中

    正廼𡀚(訊)厲曰:“女(汝)賈田不(否)?”厲許,曰:“余審賈田五田。”
    五祀衛鼎,《銘圖》02497;周中

    用夨[⿰戈業](業)散邑,即散用田。
    散氏盤,《銘圖》14542;周晩

楚簡

接続用法のほか固有名詞としても用いられている。
  1. 副:すなわち。そして。また。さらに。=乃
    又(有)孚不終,乃𤔔(乃)啐(萃)。
    上博一《周易・革》29

    改(巳)日(乃)孚,元羕(享)貞,利貞,𠰔(悔)亡。
    上博一《周易・革》47
  2. 副:すなわち。そして。そこで。続いて。=乃
    [⿱少子]〓(小子)發取周廷杍(梓)梪(樹)于氒(厥)𨳿(間)。
    清華壹《程寤》1

    方(旁)救(求)巽(選)睪(擇)元武聖夫,𦟤(羞)于王所。
    清華壹《皇門》3

    [⿰亻𧧈] (訊)敚(説)曰:“帝殹(繄)爾以畀[⿱余口](余),殹(抑)非?”
    清華叁《説命上》3

    才(在)[⿹暊又](夏)之𣂟(哲)王,嚴[⿰礻寅]畏皇天上帝之命。
    清華伍《厚父》3
  3. 「又廼」:古国名。=有娀
    禼(契)之母,又(有)廼(娀)是(氏)之女也。
    上博二《子羔》10

釋形

甲骨文は「西」あるいは「鹵」と凵形あるいは「口」に従い、多くの字体が見られる。「西」は声符である可能性が高いが、「西」が「鹵」に変化したのか、「鹵」が「西」に変形音化したのかは不明。仮借の用法しかなく、造字本義は定かではない。上部は塩粒で下部は皿(高鴻縉)、上部は容器で下部は敷物(朱方圃)、といった説が代表的ではあるがいずれも根拠に乏しい。
周晩期に「卣」と同化して上部に横画が追加された。下部の凵形の部品は戦国時代には𠃊形となり、後漢代に草書の「辶」と同形化し、楷書で「辶」あるいは「廴」に変化した。
説文古文の「𠨅」は先秦に用例がなく、誤りと思われる。

釋詞

上述のように、接続用法は仮借と思われ、本義は不明である。


字典「乃」

「乃」

釋義

甲骨文

二人称代詞として用いられるが、主語や目的語にはならず、連体修飾(領格・属格)として用いられる。また「迺」と同様に接続詞的な副詞として前後の句をつなぐ用法もある。
  1. 代:なんじの。あなたの。
    戊戌卜,㱿,貞。王曰:𥎦豹逸,余不爾其合,㠯史(使)歸。
    《合集》3297正;典賓

    庚辰卜:于卜土。
    《合集》34189;歷組
  2. 副:すなわち。そして。そこで。=迺
    [辛]亥貞:王令○㠯子方,奠于并。
    《合集》32833;歷二

    翌日庚其𣏮,雩,𠨘至來庚亡大雨。
    《合集》31199;無一

金文

甲骨文同様に連体修飾の二人称代詞として用いられる。西周中晩期には「乃」を主語として用いる例や、指示代詞としての用法が数例見られる。
接続用法では「迺」と同一視されることが多いが、その語法には若干の違いがある。
  1. 代:なんじの。あなたの。祖先を修飾する用法が多い。
    𬲏(載)先王既令(命)𫨶(祖)考事。
    師虎簋,《銘圖》05371;周中

    㠯(以)𠂤(師)右比毛父。
    班簋,《銘圖》05401;周中

    勿灋(廢)朕命,母(毋)㒸(墜)政。
    逆鐘,《銘圖》15193;周晩
  2. 代:なんじ。あなた。
    任縣白(伯)室。
    縣妀簋,《銘圖》05314;周中

    毌政事,母(毋)敢不尹人不中不井(型)。
    牧簋,《銘圖》05403;周中

    可(苛)湛(勘)。女(汝)敢㠯(以)乃師訟。
    𠑇匜,《銘圖》15004;周中
  3. 代:この。その。「申就乃命」の用法が多い。
    今余隹(唯)𤕌(申)𫢁(就)命。
    牧簋,《銘圖》05403;周中

    𩁹𡀚(訊)庶右粦(鄰),母(毋)敢不明不中不井(型)。
    牧簋,《銘圖》05403;周中

    人,乃弗得,女(汝)匡罰大。
    曶鼎,《銘圖》02515;周中
  4. 副:すなわち。そして。そこで。
    接:すなわち。そして。そこで。
    履付裘衛林𡥨里,則成夆(封)亖(四)夆(封)。
    九年衛鼎,《銘圖》02496;周中

    噩(鄂)𥎦(侯)馭方內(納)壺于王,祼之。
    鄂侯馭方鼎,《銘圖》02464;周晩

    用昭乃穆穆不(丕)顯龍(寵)光,用𣄨(祈)匃多福。
    遟父鐘,《銘圖》15297;周晩
  5. 副:すなわち。そうしてはじめて。そこでやっと。
    [必]會王符,敢行之。
    新郪虎符,《銘圖》19176;戰晩
  6. 接:もし。仮に~ならば。
    令眔(暨)奮,克至,余𠀠(其)舍(捨)女(汝)臣十家。
    令鼎,《銘圖》02451;周早

    求乃人,弗得,女(汝)匡罰大。
    曶鼎,《銘圖》02515;周中
  7. 人名用字。
    𪺡子乍(作)氒(厥)文考寶𬯚(尊)彝。
    乃𪺡子鼎,《銘圖》02044;周早

    𫨸(矧)辛白(伯)蔑子克𤯍(懋)。
    乃子克鼎,《銘圖》02322;周早

楚簡


  1. 代:なんじの。あなたの。
    《康[⿱言廾](誥)》員(云):“敬明罰。”
    郭店《緇衣》29

    《康[⿱言廾](誥)》員(云):“敬明罰。”
    上博一《緇衣》15

    愻(遜)惜(措)心,𦘔(盡)𡧛(付)畀余一人。
    清華壹《祭公之顧命》8
  2. 代:なんじ。あなた。
    休才(哉),𨟻(將)多昏(問)因由,乃不[⿺辶⿱止㚔](失)厇(度)。
    上博三《彭祖》1
  3. 副:すなわち。まさに。~である。
    攸(修)之身,丌(其)惪(德)貞。
    郭店《老子乙》16

    攸(修)之向(鄉),其惪(德)長。攸(修)之邦,其惪(德)奉(豐)。
    郭店《老子乙》17
  4. 副:すなわち。そして。そこで。
    咎(皋)𡍒(陶)既已受命,𠓥(辨)侌(陰)昜(陽)之[⿱既火](氣)。
    上博二《容成氏》29

    參(三)[⿰土丯](郤)既亡,公家溺(弱),鑾(欒)箸(書)弋(弒)[⿰⿻木𦥑攵](厲)公。
    上博五《姑成家父》10

    立丗〓(三十)又九年,戎大敗周𠂤(師)于千[⿱母田](畝)。
    清華貳《繋年》第一章4

    欲亓(其)子奚𬁼(齊)之爲君也,[⿰言⿱虫虫](讒)大(太)子龍(共)君而殺之。
    清華貳《繋年》第六章31
  5. 副:すなわち。すでに。過去や完了を表す。
    [⿱允𪢾](舜)老,視不明,聖(聽)不[⿰耳兇](聰)。
    上博二《容成氏》17

釋形

極めて単純な形で、字義も仮借と考えられるため、解釈は難しい。形は「弓」にも似ている。
「繩」の初文で縄の象形(朱芳圃、何琳儀)、「奶」の初文で女性の乳の象形(郭沬若、徐中舒)の二説が代表的であるが、いずれも根拠に乏しい。ここでは、物を引く形で「扔」の初文ではないか、という可能性も提示しておく。
説文籀文の「𠄕」は先秦に用例がなく、誤りと考えられる。

釋詞

「乃」のほか二人称代詞に用いられる「女(汝)」「爾」「而」などはいずれも近音で同源詞と思われる。


2017/06/15

字典「㠯(以)」

「㠯」

釋義

甲骨文

殷代における「㠯(以)」字の用法は広いが、おおむね現在と同様の意味である。
  1. 動:もちいる。 ひきいる。
    前:もって。~によって。~をひきいて。
    《合集》31977;歷二
    ①辛亥,貞: [⿱匕鬯]㠯(以)衆灷,受又(佑)。
    《合集》35356;黄二
    ②乙丑卜,貞:王其又升于文武帝祼,其㠯(以)羌,其五人正,王受又〓(有佑)。
  2. 動:もたらす。もってくる。献上する。
    《合集》33191;歷二
    ①癸亥,貞:厃方㠯(以)牛,其登于來甲申。
    《合集》93正;賓一
    ②己丑卜,㱿,貞:即芻,其五百隹,六。
  3. 動:祭祀名。 
  4. 《合集》32848;歷二
    ①辛巳,貞:㠯(以)伊示。
    《合集》32543;歷二
    ②庚寅,貞:王米于囧㠯(以)祖乙。
  5. 接:および。並びに。
    《合集》21562;子組
    ①庚辰,令彖隹來豕㠯(以)龜二,若令。
    《合集》33278;歷二
    ②辛酉,貞:王令○㠯(以)子方奠于并。

金文

金文における「㠯(以)」字の用法はとても広く、分類の難しい用例もある。
  1. 動:ひきいる。引き連れる。
    小子[⿱夆囧]卣,《銘圖》13326;商晩
    ①子令小子[⿱夆囧]㠯(以)人于堇。
    小臣𬣆簋,《銘圖》05269-05270;周早
    ②白(伯)懋父㠯(以)殷八𠂤(師)征東尸(夷)。
    師訇簋,《銘圖》05402;周晩
    ③率㠯(以)乃友干(捍)䓊(禦)王身。
  2. 前:もって。~で。~によって。
    鼓䍙簋,《銘圖》04988;周早
    ①王令東宮追㠯(以)六𠂤(師)之年。
    衛姒鬲,《銘圖》02802;周晩
    ②衛㚶(姒)乍(作)鬲,㠯(以)從永征。
    曾伯漆簠,《銘圖》05980;春早
    ③余用自乍(作)[⿺辶旅](旅)𠤳(簠), 㠯(以)㠯(以)行,用盛稻粱。
  3. 前:もって。~によって。~にもとづいて。「是以」
    虢季子白盤,《銘圖》14538;周晩
    ①折首五百,執訊五十,是㠯(以)先行。
    中山王鼎,《銘圖》02517;戰中
    ②氏(是)㠯(以)賜之氒(厥)命。
  4. 前:もって。~をひきいて。ともに。=與
    麥尊,《銘圖》11820;周早
    ①王㠯(以)𥎦(侯)内(入)于𡨦(寢)。
    虢仲盨蓋,《銘圖》05623;周晩
    ②虢中(仲)㠯(以)王南征,伐南淮尸(夷)。
    食仲走父盨,《銘圖》05616;周晩
    ③走父㠯(以)其子〓孫〓寶用。
  5. 前:もって。~を。~に対して。
    師旂鼎,《銘圖》02462;周中
    ①吏(使)氒(厥)友引㠯(以)告于白(伯)懋父。
    曶鼎,《銘圖》02515;周中
    㠯(以)匡季告東宮。
    𠑇匜,《銘圖》15004;周中
    ③乃師或㠯(以)女(汝)告。
  6. 接:もって。そして。それで。
    善夫山鼎,《銘圖》02490;周晩
    ①受册,佩㠯(以)出。
    晋侯蘇鐘,《銘圖》15307-15308;周晩
    ②𩵦(蘇)𢱭(拜)𩒨(稽)首,受駒㠯(以)出。
    中山王鼎,《銘圖》02517;戰中
    ③含(今)𫊣(吾)老賈,親率曑(三)軍之眾,㠯(以)征不宜(義)之邦。
  7. 接:および。並びに。=與
    夨令尊,《銘圖》11821;周早
    ①爽𬢚(左)右于乃寮㠯(以)乃友事。
    大克鼎,《銘圖》02513;周中
    ②田于[⿰⿱田山夋](峻),㠯(以)氒(厥)臣妾。
    大簋蓋,《銘圖》05345;周晩
    ③余弗敢𫿣(吝), 豖㠯(以)𬑪(睽)[⿰舟頁](履)大易(錫)里。
  8. 助:場所や時間の範囲を示す。のみ。
    散氏盤,《銘圖》14542;周晩
    ①眉(堳)自𬉄(瀗)涉㠯(以)南,至于大沽(湖)。
    新郪虎符,《銘圖》19176;戰晩
    ②用兵五十人㠯(以)上,[必]會王符。

楚簡

用例が多く、用法も広い。代表的なものを示す。
  1. 前:もって。~で。~によって。
    包山《集箸言》144
    ①小人信㠯(以)刀自㦹(傷)。
    郭店《老子甲》3
    ②其才(在)民上也,㠯(以)言下之。
    清華貳《繋年》第十一章59
    㠯(以)女子與兵車百𨌤(乘)。
  2. 前:もって。~によって。から。
    包山《疋獄》99
    㠯(以)亓(其)反(叛)官,自䜴(屬)於新大[⿸厂⿰飠攵](廐)之古(故)。
    上博七《鄭子家喪》甲本6
    㠯(以)子家之古(故)。
    清華貳《繋年》第十八章103
    ③至今齊人㠯(以)不服于晉。
  3. 前:もって。~のときに。時間を表す。
    包山《疋獄》90
    㠯(以)甘𠤳(固)之𫻴(歲)。
    包山《集箸言》132
    㠯(以)宋客盛公[⿰畀臱](邊)之𫻴(歲)[⿰⿱井田刃](荆)𫵖(夷)之月癸巳之日。
    包山《集箸言》145反
    㠯(以)八月甲戌之日。
  4. 前:もって。~をひきいて。ともに。=與
    包山《集箸》2
    ①魯昜(陽)公㠯(以)楚帀(師)𨒥(後)𩫨(城)奠(鄭)之𫻴(歲)。
    上博四《昭王毀室》5
    ②卒㠯(以)夫〓(大夫)㱃〓(飲酒)於坪澫。
    清華貳《繋年》第十九章106
    ③吴縵(洩)用(庸)㠯(以)帀(師)逆[⿰㣇阝](蔡)卲(昭)侯。
  5. 前:もって。~を。~に対して。
    包山《集箸》159
    ①罼(畢)紳命㠯(以)[⿰𪰊頁](夏)[⿺辶各](路)史、[⿺辶舟]史爲告於少帀(師)。
    上博二《容成氏》10
    ②堯㠯(以)天下襄(讓)於臤(賢)者。
    清華貳《繋年》第六章35
    ③秦穆公㠯(以)亓(其)子妻之。
  6. 接:もって。そして。それで。
    包山《受幾》22
    ①不諓(察)[⿱陳土](陳)宔(主)[⿰角隼](顀)之[⿰昜刂](傷)之古(故)㠯(以)告。
    上博六《莊王既成》1
    㠯(以)昏酖(沈)尹子桱。
    清華貳《繋年》第十六章90
    ③厲公亦見𧜓(禍)㠯(以)死,亡𨒥(後)。
  7. 接:もって。~ので。~のために。
    包山《疋獄》93
    ①𨛡(宛)人𨊠(範)紳訟𨊠(範)駁,㠯(以)亓(其)敓亓(其)𨒥(後)。
    清華壹《金縢》12
    ②今皇天[⿺辶童](動)畏(威),㠯(以)章公惪(德)。
    清華貳《繋年》第十三章63
    ③楚人被[⿱加車](駕)㠯(以)追之。
  8. 助:場所や時間の範囲を示す。のみ。
    上博二《容成氏》27
    ①㙑(禹)乃從灘(漢)㠯(以)南爲名浴(谷)五百。
    上博六《競公瘧》10
    ②自古(姑)、𧈡(尤)㠯(以)西,翏(聊)、𡥨(攝)㠯(以)東

釋形

人が物を持っている形。「携える」「持ってくる」の意味を表している。
殷村南派や周代には右部を省略した略体が用いられ、これが楷書の「㠯」の起源となっている。戦国時代秦国では略体に再び「人」を加えた字体が作られ、これが楷書の「以」の起源となっている。

古くは甲骨文の繁体について「氏(致)」「氐」字と釈す説が主流であった。また「㠯」の起源となった字体は「耜」の初文で農具の象形と考えられていた(徐中舒)。しかし、《合集》277と《合集》32023の対比などにより、「氏」「氐」と考えられていた字体と「㠯」とが繁簡関係にある同一字種であると指摘され、上記の旧説が否定された(島邦男、王貴民、林澐、裘錫圭等)。

釋詞

「㠯」声字は「台」声字や「矣」声字などを含み非常に数が多い。「能」声字を同源とする説もある。


2017/06/03

字典「𦣞(𦣝)」

「𦣞」

釋義

金文

用例は少なく、固有名詞にしか用いられていない。
  1. 名:人名。族名。
    𦣞
    𦣞觚,《銘圖》09037;商晩

    鑄子弔(叔)黑𦣞肈乍(作)寶盨。
    鑄子叔黑𦣞盨,《銘圖》05607-05608;春早
  2. 名:姓。=姬
    魯白(伯)愈父乍(作)鼄(邾)𦣞(姬)仁𦨶(媵)𬐿(沬)盤。
    魯伯愈父盤,《銘圖》14448;周晩

    黄子乍(作)黄甫(夫)人孟𦣞(姬)器則。
    黄子鬲,《銘圖》02844;春早

楚簡

用例は「頤」が《周易》に用いられているのみ。
  1. 名:卦の一つ。
    :貞吉。觀,自求口實。
    上博三《周易・頤》24

秦簡

用例は「頤」が《日書・黄鐘》に用いられているのみ。
  1. 名:あご。おとがい。下あご。
    兑(鋭)顔,兑(鋭),赤黑,免(俛)僂,善病心、腸。
    放馬灘《日書》乙種《黄鐘》206

釋形

郭沫若は「頤」の初文で顎の象形、于省吾は「䇫」の初文で梳き櫛の象形、白川静は乳房の象形としている中で、于省吾の説がほぼ定説となっている(近年、蔣玉斌《甲骨文待登録字“𦣞”“巸”釋説》が発表されたが未見、下顎と歯の象形としているようである)。
殷墟甲骨文に「𦣞」の用例はないが、これを偏旁として含む「姬」字が見られる。後代の出土文字資料も同様に「𦣞」の用例は少ない一方で「姬」は多く見られる。
《説文》では「頤」が「𦣞」の異体字とされているため、習慣的に「𦣞」「頤」を同一字種として扱うことがある。「頤」は隷書楷書ではさまざまな字形が見られる。「顊」は《康煕字典》では「頤」とは別字種として扱われている。

釋詞

「巸」声字と「喜」声字は音義とも近く、同源と考えられる。

  • 《説文》五篇上《喜部》「喜,樂也。」(96下)
  • 《方言》卷十「紛怡,喜也。湘潭之間曰紛怡,或曰巸巳。
  • 《尚書・堯典》「庶績咸熙。」、《文選・劇秦美新》「庶績咸喜。
  • 《説文》十二篇下《女部》「媐,說樂也。」(262下)
  • 《玉篇》卷二十一《火部》「熹,熱也,烝也,炙也,熾也。亦作“熈、暿”。」(390)

2017/06/01

字典「負」

「負」

釋義

金文

金文の「負」字は戦国晩期の兵器に一例あるのみである。
  1. 「負陽」:地名。
    十二年,負陽命(令)□雩,工帀(師)樂休,冶□。
    負陽令戈,《銘圖》17199;戰晩
また負黍令韓譙戈(《銘圖》17178-17180)は地名「負黍」を「[⿱付臣]余」とする。

楚簡

楚簡に「負」字は用いられていない。
上博三《周易・睽》33「見豕[⿱伓貝](負)𡌆(塗)」、同《周易・解》37「[⿱伓貝](負)𠭯(且)𨍱(乘)。」、今本《周易》が「負」とするところを上博簡は「⿱伓貝」に作る。

秦簡

法律文書では「負う」「償う」の用例が多く見られる。
  1. 動:おう。背負う。背中に物を載せる。
    吏自佐、史以上從馬、守書私卒,令市取錢焉,皆䙴(遷)。
    睡虎地《秦律雜抄》11

    一人米十斗,一人粟十斗,食十斗。
    嶽麓貳《數・衰分類算題》137
  2. 動:おう。責任、債務をもつ。
    作務及賈而責(債)者,不得代。
    睡虎地《秦律十八種・司空》136

    夫妻相反者,妻若夫必有死者。
    嶽麓壹《占夢書》9貳
  3. 動:つぐなう。賠償する。
    其不備,出者之;其贏者,入之。
    睡虎地《秦律十八種・倉律》23

    羣它物當賞(償)而僞出之以彼賞(償)。
    睡虎地《秦律十八種・效》174
  4. 名:つま。=婦
    驚多問新負(婦)、妴得毋恙也?
    睡虎地11號木牘反Ⅵ

    驚多問新負(婦)、妴皆得毋恙也?
    睡虎地6號木牘正Ⅴ
  5. 名:えびら。矢筒。=箙
    卒百人,戟十、弩五、三,問得各幾可(何)?
    嶽麓貳《數・衰分類算題》132

    述(術)曰:同戟、弩、數,以爲法。
    嶽麓貳《數・衰分類算題》133

釋形

「人」と「貝」に従う。戦国晩期以前には見られない。「府」の戦国時代に見られる異体字には「𢊾」「⿱付貝」「⿸广負」等があり、「負」は「⿱付貝(府)」から分化した字と思われる(黄德寬)。
南北朝~唐代には説文小篆を楷書化したものとして上部を「刀」とした字体が用いられたが、《五經文字》には「負」が採用された。

釋詞

「負」「背」「倍」は音義とも近く通仮例があり、同源である。
  • 《釋名・釋姿容》「負,背也,置項背也。
  • 《史記・酈生陸賈列傳》「項王負約不與。」,《漢書・酈陸朱劉叔孫傳》「項王背約不與。
  • 《釋名・釋形體》「背,倍也,在後稱也。
  • 馬王堆《老子》甲本《道篇》126「民利百負。」、同乙本233下「民利百倍。
否定の意志→「そむく」→「負う」という語義展開が考えられる。