2017/06/28

字典「乃」

「乃」

釋義

甲骨文

二人称代詞として用いられるが、主語や目的語にはならず、連体修飾(領格・属格)として用いられる。また「迺」と同様に接続詞的な副詞として前後の句をつなぐ用法もある。
  1. 代:なんじの。あなたの。
    戊戌卜,㱿,貞。王曰:𥎦豹逸,余不爾其合,㠯史(使)歸。
    《合集》3297正;典賓

    庚辰卜:于卜土。
    《合集》34189;歷組
  2. 副:すなわち。そして。そこで。=迺
    [辛]亥貞:王令○㠯子方,奠于并。
    《合集》32833;歷二

    翌日庚其𣏮,雩,𠨘至來庚亡大雨。
    《合集》31199;無一

金文

甲骨文同様に連体修飾の二人称代詞として用いられる。西周中晩期には「乃」を主語として用いる例や、指示代詞としての用法が数例見られる。
接続用法では「迺」と同一視されることが多いが、その語法には若干の違いがある。
  1. 代:なんじの。あなたの。祖先を修飾する用法が多い。
    𬲏(載)先王既令(命)𫨶(祖)考事。
    師虎簋,《銘圖》05371;周中

    㠯(以)𠂤(師)右比毛父。
    班簋,《銘圖》05401;周中

    勿灋(廢)朕命,母(毋)㒸(墜)政。
    逆鐘,《銘圖》15193;周晩
  2. 代:なんじ。あなた。
    任縣白(伯)室。
    縣妀簋,《銘圖》05314;周中

    毌政事,母(毋)敢不尹人不中不井(型)。
    牧簋,《銘圖》05403;周中

    可(苛)湛(勘)。女(汝)敢㠯(以)乃師訟。
    𠑇匜,《銘圖》15004;周中
  3. 代:この。その。「申就乃命」の用法が多い。
    今余隹(唯)𤕌(申)𫢁(就)命。
    牧簋,《銘圖》05403;周中

    𩁹𡀚(訊)庶右粦(鄰),母(毋)敢不明不中不井(型)。
    牧簋,《銘圖》05403;周中

    人,乃弗得,女(汝)匡罰大。
    曶鼎,《銘圖》02515;周中
  4. 副:すなわち。そして。そこで。
    接:すなわち。そして。そこで。
    履付裘衛林𡥨里,則成夆(封)亖(四)夆(封)。
    九年衛鼎,《銘圖》02496;周中

    噩(鄂)𥎦(侯)馭方內(納)壺于王,祼之。
    鄂侯馭方鼎,《銘圖》02464;周晩

    用昭乃穆穆不(丕)顯龍(寵)光,用𣄨(祈)匃多福。
    遟父鐘,《銘圖》15297;周晩
  5. 副:すなわち。そうしてはじめて。そこでやっと。
    [必]會王符,敢行之。
    新郪虎符,《銘圖》19176;戰晩
  6. 接:もし。仮に~ならば。
    令眔(暨)奮,克至,余𠀠(其)舍(捨)女(汝)臣十家。
    令鼎,《銘圖》02451;周早

    求乃人,弗得,女(汝)匡罰大。
    曶鼎,《銘圖》02515;周中
  7. 人名用字。
    𪺡子乍(作)氒(厥)文考寶𬯚(尊)彝。
    乃𪺡子鼎,《銘圖》02044;周早

    𫨸(矧)辛白(伯)蔑子克𤯍(懋)。
    乃子克鼎,《銘圖》02322;周早

楚簡


  1. 代:なんじの。あなたの。
    《康[⿱言廾](誥)》員(云):“敬明罰。”
    郭店《緇衣》29

    《康[⿱言廾](誥)》員(云):“敬明罰。”
    上博一《緇衣》15

    愻(遜)惜(措)心,𦘔(盡)𡧛(付)畀余一人。
    清華壹《祭公之顧命》8
  2. 代:なんじ。あなた。
    休才(哉),𨟻(將)多昏(問)因由,乃不[⿺辶⿱止㚔](失)厇(度)。
    上博三《彭祖》1
  3. 副:すなわち。まさに。~である。
    攸(修)之身,丌(其)惪(德)貞。
    郭店《老子乙》16

    攸(修)之向(鄉),其惪(德)長。攸(修)之邦,其惪(德)奉(豐)。
    郭店《老子乙》17
  4. 副:すなわち。そして。そこで。
    咎(皋)𡍒(陶)既已受命,𠓥(辨)侌(陰)昜(陽)之[⿱既火](氣)。
    上博二《容成氏》29

    參(三)[⿰土丯](郤)既亡,公家溺(弱),鑾(欒)箸(書)弋(弒)[⿰⿻木𦥑攵](厲)公。
    上博五《姑成家父》10

    立丗〓(三十)又九年,戎大敗周𠂤(師)于千[⿱母田](畝)。
    清華貳《繋年》第一章4

    欲亓(其)子奚𬁼(齊)之爲君也,[⿰言⿱虫虫](讒)大(太)子龍(共)君而殺之。
    清華貳《繋年》第六章31
  5. 副:すなわち。すでに。過去や完了を表す。
    [⿱允𪢾](舜)老,視不明,聖(聽)不[⿰耳兇](聰)。
    上博二《容成氏》17

釋形

極めて単純な形で、字義も仮借と考えられるため、解釈は難しい。形は「弓」にも似ている。
「繩」の初文で縄の象形(朱芳圃、何琳儀)、「奶」の初文で女性の乳の象形(郭沬若、徐中舒)の二説が代表的であるが、いずれも根拠に乏しい。ここでは、物を引く形で「扔」の初文ではないか、という可能性も提示しておく。
説文籀文の「𠄕」は先秦に用例がなく、誤りと考えられる。

釋詞

「乃」のほか二人称代詞に用いられる「女(汝)」「爾」「而」などはいずれも近音で同源詞と思われる。



参考・関連文献

工具書

徐中舒主编《甲骨文字典》第500頁,四川辞书出版社1989年。
劉興隆《新編甲骨文字典》第273頁,國际文化出版1993年。
于省吾主編《甲骨文字詁林》第2630頁,中華書局1996年。
崔恒升《简明甲骨文词典》(增订本)第15頁,安徽教育出版社2001年。
马如森《殷墟甲骨文实用字典》第114頁,上海大学出版社2008年。
趙誠《甲骨文簡明詞典――卜辭分類讀本》第293、307頁,中華書局2009年第2版。
落合淳思《甲骨文辞典》第345頁,朋友書店2016年。
方述鑫等《甲骨金文字典》第349頁,巴蜀书社1993年。
張世超等《金文形義通解》第1117頁,中文出版社1996年。
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季旭昇《説文新證》第389頁,藝文印書館2014年。

文字編

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論文

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沈柏汘《〈北京大學藏西漢竹書・貳〉文字編》第278頁,彰化師範大學2014年碩士大學論文。

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