2017/07/16

字典「來」

「來」

釋義

甲骨文

「来る」の意味に用いられる。その対象は人だけでなく、敵国の攻撃・天候・災害など多岐にわたる。対象によって「~來」と「來~」の形がある。
「來+時間詞」の形で「次にやってくるその時間」を表す用法がある。「来年」「来週」などと同用法である。殷墟甲骨文では「來+干支」の形が多い。
  1. 動:くる。きたる。遠くから近くにやってくる。
    《花東》481;花二
    ①才(在)𫦎(割)自斝。
    《合集》1027正;賓一
    ②己未卜,㱿,貞:缶其見王。一月。
     己未卜,㱿,貞:缶不其見王。
    《合集》2763反;典賓
    ③帚井
    《合集》36509;黄一
    ④隹(惟)王正(征)盂方白(伯)炎。
  2. 動:もたらす。貢納する。
    《合集》9200反;賓一
    ①我卅。
    《合集》152反;賓一
    ②奠十。
    《合集》945正;賓一
    ③貞:古犬。
     古不其犬。
     古馬。
     不其馬。
  3. 形:将来の。日時・時間を表す言葉をあとにおいて「次に来る~」を表す。
    《合集》6478;典賓
    ①貞:乙亥㞢(侑)于祖乙。
    《合集》12466正;典賓
    ②貞:乙酉其雨。
     貞:庚寅其雨。
     貞:庚寅不其雨。
    《村中南》403.2;無一
    ③于辛巳𫹉,受禾。
  4. 名:むぎ。小麦。
    《合集》914;賓一
    ①辛亥卜,貞:[咸]穫
  5. 名:地名。
    《合集》20907;𠂤小
    ①己未卜:今日不雨。才(在)
    《合集》19471;賓三
    ②貞:从至于皿。

金文

西周金文では多くの場合後ろに他の動詞をくっつけて用いられる。直訳すると「来て~する」「~しにくる」或いは「~してくる」となるが、実際は文中においてあまり意味をなさない。
  1. 動:くる。きたる。遠くから近くにやってくる。
    录簋,《銘圖》05115;周中
    ①白(伯)[⿰呇隹](雝)父自㝬。
    動:きて~する。~しにくる。他の動詞をあとに続けて用いる。
    小臣艅尊,《銘圖》11785;商晩
    ②隹(唯)王正(征)人(夷)方。
    厚趠鼎,《銘圖》02352;周早
    ③隹(唯)王各(格)于西周年。
    史牆盤,《銘圖》14541;周中
    ④𣁋(微)史剌(烈)且(祖),廼見武王。
    五年琱生簋,《銘圖》05340;周晩
    ⑤琱生又(有)事,召合事。
  2. 形:将来の。日時・時間を表す言葉をあとにおいて「次に来る~」を表す。
    「來歲」:来年。
    曶鼎,《銘圖》02515;周中
    ①[若]來歲弗賞(償),則付卌秭。
  3. 名:人名用字。
    邾來隹鼎,《銘圖》02885;春早
    ①鼄(邾)隹乍(作)鼎。
  4. 「來歸」:帰ってくる。
    不𡢁簋,《銘圖》05387;周晩
    ①余來歸獻禽(擒)。

楚簡

九店楚簡《簿》では「檐」「⿰禾坐」「⿰禾癸」などともに、「⿱崔田」を数える量詞として用いられている。「⿱崔田」は「㽯(畦)」の異体字と考えられている。
卜筮簡では前辞に「來歲」が用いられている。
なお、楚簡では主に「⿱來止」「逨」の字体が用いられる。上博三《周易》では「⿰木⿱來止」「⿱萊止」も用いられているが、いずれも今本では「來」に作る。
  1. 動:くる。きたる。遠くから近くにやってくる。
    郭店《語叢四》2
    ①往言[⿰昜刂](傷)人,[⿱來止](來)言[⿰昜刂](傷)𠮯(己)。
    包山《集箸言》132反
    ②[⿱衰刖]尹傑[⿰馬𡉣](馹)從郢以此等(志)[⿱來止](來)
    上博三《周易・比》9
    ③不寍(寧)方逨(來),𨒥(後)夫凶。
    清華貳《繋年》第五章25
    ④君[⿱來止](來)伐我〓(我,我)𨟻(將)求𫻲(救)於[⿰㣇阝](蔡),君[⿱女一](焉)敗之。
  2. 名:卦の一つ。「震」の別名。=釐
    清華肆《筮法・四季吉凶・春》37
    [⿱來止](來)巽大吉。
    清華肆《筮法・四季吉凶・夏》37
    [⿱來止](來)巽少(小)吉。
    清華肆《筮法・四季吉凶・冬》38
    [⿱來止](來)巽大凶。
  3. 名:詩の篇題。《詩經・周頌》に収められている。=賚
    郭店《性自命出》25
    ①雚(觀)《[⿱來止](賚)》、《武》,則齊女(如)也斯[⿱乍又](作)。
    郭店《性自命出》28
    《[⿱來止](賚)》、《武》樂取,《卲(韶)》、《[⿹暊止](夏)》樂情。
    上博一《性情論》15
    ③[⿱雚目](觀)《[⿱來止](賚)》、《武》,則[⿱齊心](齊)女(如)也斯[⿱乍又](作)。
  4. 名:地名用字。
    州来国は春秋時代の小国。
    清華貳《繋年》第五章25
    ①五(伍)雞𨒫(將)吴人以回(圍)州[⿱來止](來)
    清華貳《繋年》第十五章82
    ②吴縵(洩)用(庸)以𠂤(師)逆[⿰㣇阝](蔡)卲(昭)侯,居于州[⿱來止](來)
    棘津は黄河の渡しの一つ。
    郭店《窮達以時》4-5
    ③郘(呂)𡔞(望)爲牂(臧)[⿱來止](棘)𣿕(津),戰(守)監門[⿱來止](棘)地。
  5. 量:「⿱崔田」に対して用いられる数量単位。
    九店《簿》1
    ①[⿱崔田]二[⿰禾坐]又五,敔[⿰禾毋]之五檐(擔)。
    九店《簿》3
    ②[⿱崔田]五[⿰禾癸]又五,敔[⿰禾毋]之十檐(擔)一檐(擔)。
    九店《簿》4
    ③……方七,麇一,[⿱崔田]五[⿰禾癸]又六,[⿱崔田]四……
  6. 「來各(格)」:やってくる。
    清華壹《耆夜》8
    ①不(丕)㬎(顯)逨(來)各(格)[⿱金心](歆)氒(厥)𬪭(禋)明(盟)。
    清華叁《説命中》2
    來各(格)女(汝)敚(説),聖(聽)戒朕言,[⿰氵軫](慎)之于乃心。
  7. 「來歸」:帰ってくる。
    九店《日書・告武夷》44
    ①囟(思)某逨(來)䢜(歸)飤(食)故□。
  8. 「來𫻴(歲)」:来年。
    天星觀《卜筮祭禱》9-1
    ①從十月以至[⿱來止](來)𫻴(歲)之十月。
    葛陵《卜筮祭禱》甲三117、120
    ②[⿱夜示](𬒵)之月以至[⿱來止](來)𫻴(歲)之[⿹暊虫](夏)[⿱夜示](𬒵)。
    葛陵《卜筮祭禱》乙一19
    ③自[⿹暊虫](夏)[⿱夜示](𬒵)之月以至[⿱來止](來)𫻴(歲)[⿹暊虫](夏)[⿱夜示](𬒵)。

釋形

麦の象形で、「麥」の初文。しかし麦を意味する用例は少なく、ほとんどが到来の意味に用いられている。
賓組甲骨文では上部の短横画を省略した形を用いる。無名組では中部の画を反転させた形が見られる。黄組には縦画の上部を曲げた形が見られる。戦国楚簡の文字は縦画下部に短横画を加えたものが多い。
戦国時代の燕・晋・楚国では意符として「止」「彳」「辵」を加えた字体が見られる。北魏には「走」を加えた字体も見られる。
後漢以降「來」より「来」の字体が用いられたが、開成石經では「來」の字体が用いられ、そのまま「來」が康熙字典体となっている。

釋詞

{麦}が本義で、{到来}は仮借義とするのが一般的であるが、麦が外来植物であることからの引伸義とする説もある。




参考・関連文献

工具書

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劉興隆《新編甲骨文字典》第325頁,國际文化出版1993年。
于省吾主編《甲骨文字詁林》第1451頁,中華書局1996年。
崔恒升《简明甲骨文词典》(增订本)第336頁,安徽教育出版社2001年。
马如森《殷墟甲骨文实用字典》第134頁,上海大学出版社2008年。
趙誠《甲骨文簡明詞典――卜辭分類讀本》第268、345頁,中華書局2009年第2版。
落合淳思《甲骨文辞典》第318頁,朋友書店2016年。

方述鑫等《甲骨金文字典》第410頁,巴蜀书社1993年。
張世超等《金文形義通解》第1401頁,中文出版社1996年。

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黄德宽主编《古文字谱系疏证》第187頁,商务印书馆2007年。
李学勤主编《字源》第481頁,天津古籍出版社2012年。
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文字編

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湯志彪《三晋文字編》第793頁,作家出版社2013年。
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高明、涂白奎《古陶字録》第212頁,上海古籍出版社2014年。

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佐野光一編《木簡字典》第53頁,雄山閣出版1985年。
梅原清山編《北魏楷書字典》第50頁,二玄社2003年。

論文

李樟花《甲骨文运动动词“来、往”研究》,西南大学2014年硕士大学论文。
夏大兆《甲骨文字用研究》第548頁,安徽大学2014年博士大学论文。
沈柏汘《〈北京大學藏西漢竹書・貳〉文字編》第317頁,彰化師範大學2014年碩士大學論文。

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