卜辞の構成
卜辞はある程度文章の様式が決まっており、主に前辞・命辞・占辞・験辞の4つの部分から構成される。《甲骨文合集》6057正の文章(一部)を例にあげる。なお、[]内は欠けていたり読めなくなっている字を補ったものである。- 癸巳卜㱿貞旬亡𡆥王占曰㞢[求]其㞢來㛸气至五日丁酉允有來[㛸自]西……(以下略)《合集》6057正(典賓)
前辞:癸巳卜㱿貞
前辞は基本的に「干支卜某貞」の形式で書かれるが、一部が省略されることもある。「干支」は占卜を行った日付である。「某」の部分には貞人とよばれ、占卜を行った官人の名前が入る。なお、王自らが貞人の役割を担ったものもある。「貞」は具体的な意味はよくわかっていないが、占うという意味と思われる。「貞」は命辞の一部分と捉える人もいる。この文章では「癸巳の日に㱿という人物が占った」という意味になる。
命辞:旬亡𡆥
命辞は占卜の対象となる事柄(主に未来の予定あるいは予言)が書かれる。「旬」は十日をひとまとまりとした一期間のこと。「亡」は有る無しの無し。「𡆥」は「𠧞」「繇」の初文で「憂」に通じ災厄を意味する字。「次の旬に憂事がない」という意味になる。
占辞:王占曰㞢求其㞢來㛸
占辞は占卜の結果判断が書かれる。多くの場合は、王が吉凶判断を行うため「王占曰」から始まる。「㞢」は「有」の初文。「求」は「咎」に通じて災厄のこと。「㛸」は「囏(艱)」の異体字でやはり災厄のことだが、特に敵襲を意味する。「王が卜兆を見て、敵襲があるだろうと言った」という意味になる。
験辞:气至五日丁酉允有來㛸自西
験辞では占卜ののち、実際にどうだったかが示される。多くの場合「允」の字が用いられ、実際に~だったという文章になっている。「气」は「迄」に通じ、「气至~」で日が至るの意味。(癸巳の日から)五日後の丁酉の日になり本当に西から敵襲があった、という意味になる。
- 癸巳卜,㱿,貞:旬亡𡆥(憂)。王占曰:㞢(有)[求(咎)],其㞢(有)來㛸(艱)。气(迄)至五日丁酉,允有來[㛸(艱)自]西。《合集》6057正(典賓)
占卜の種類
単貞
一つの事柄について一回の占卜を行うものである。
- 癸未卜,賓,貞:今日尞。《合集》15556(賓一)
重貞
一つの事柄について二回以上繰り返し占卜を行うものである。一般的には同じ文章が並ぶ。- 癸卯卜:叀伊酓。
叀伊酓。《合集》32345(歷二)
対貞
一つの事柄について肯定否定の二つ命辞を用意して占卜を行うものである。同じような文章が並ぶが、一方には「不」「弗」「勿」等の否定詞が加わっている。- 辛亥卜,賓,貞:灷[⿱冖止]化以王係。
辛亥卜,賓,貞:灷[⿱冖止]化弗其以王係。《合集》1100正(賓一)
選貞
二つ以上の並列した内容に対して占卜を行い、いずれかを選ぶものである。犠牲の数を問うものが多い。- 尞牢坎二牢。
尞牢坎三牢。《合集》15601(賓三)
補貞
一つの事柄について占卜を行ったのち、それに対してさらに具体的な内容の占卜を行うものである。- 乙亥,貞:又(侑)伊尹。
乙亥,貞:其又(侑)伊尹二牛。《合集》33694(歷二)
遞貞
ある日付(或いは期間)に対する占卜を行ったのち、その日付に再び別の日付に対する占卜を行う、というように連鎖的に占卜を行うものである。
- 庚戌卜,㱿:翌辛亥易日。
辛亥卜,㱿:翌壬子不其易日。《英藏》1080(賓一)
以上の二つ以上を組み合わせたものも多い。
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