2015/10/12

「豊」の字形演変1

最初は字形を古いものから並べただけの記事だったけどいろいろ文章書いたら長くなった。



豊
①②は「豊」の甲骨文である。「豊」は「壴+玨」で、装飾のついた太鼓の象形である。
③④は「豐」の甲骨文である。「豐」は「壴」を意符、「亡」を声符とする形声文字である。
⑤は「壴+木」からなる字である。
《甲骨文字用研究・殷墟甲骨文已識字字表》
【豊】
 1.酒。
  花東501:“丁卜,今庚其乍,速丁飲。若。
  合31180:“其乍,又正,受又。
  合30725:“弜用茲
 2.地名。
  懷1444:“甲寅卜,乙王其田于以戍擒。
【豐】
 婦名。
  合17513:“壬寅帚示二屯。岳。
  合2798反:“…來。
【⿱林豈】
 地名。
  合8262反:“貞勿往

このほか「豊」は祭祀名としても使われている。また合27137や合30961に見える「豊庸」を楽器名とする説もある。
なお、甲骨文では意味と字形が対応している。


豊
上は殷~西周早期の金文の字。
①集成05.2625《豊作父丁鼎》:“王商(賞)宗庚貝二朋。
  「宗庚豊」は人名。
②集成08.4201《小臣宅𣪘》:“同公才(在)
  「豐」は地名。「酆」との関連が指摘されている。
③集成04.2152《豐公鼎》:“公□乍(作)尊彝。
④集成10.5346《豐卣》:“乍(作)父癸寶尊彝。
  「亡」に従う③④は作器者の人名に使われている。
⑤集成08.4261《天亡𣪘》:“王又(有)大豊(禮)王凡三方。
  「大禮」は儀礼。
⑥集成10.5357《𪬹季遽父卣》:“𪬹季遽父乍(作)姬寶尊彝。
  「豐姬」は人名。
豊
上は西周中期の金文の字。
⑦集成15.9455《長甶盉》:“穆王鄕(饗)豊(醴)
  「豊」は酒の意。
⑧近出468《叔豊簋》:“弔(叔)曰余啟(肇)乍(作)寶𣪘(簋)。
  西周金文に見られる「亡」に従う字はここで挙げたもの以外も全て人名にのみ使われている。
⑨集成01.247《𤼈鐘》:“豐〓𬉖〓。
  「豐豐𬉖𬉖」は擬声詞。もとは太鼓の音、引伸でゆたか・盛んなさまを表す。
⑩集成16.10175《史牆盤》“厚福。年。
  「豐」は「ゆたか」の意。
⑪集成06.3737《[⿱夂言]𣪘》:“[⿱夂言]乍(作)□寶𣪘(簋)。
  「豐□」は人名。
⑫集成08.4267《申𣪘蓋》:“官𤔲(司)人眔九[⿱戲皿]祝。
  「豐人」は地名。
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上は⑭を除き西周晩期の金文の字。⑭は春秋早期のもの。
⑬集成16.10176《散氏盤》:“𫪡父。
  「𫪡豐父」は人名。
⑭集成03.668《右戲仲夏父鬲》:“右戲中(仲)夏父乍(作)。”
  「豐鬲」は器名。「醴鬲」と読むという説もある。
⑮集成07.3923《豐丼叔𣪘》:“井(邢)弔(叔)乍(作)白(伯)姬尊𣪘(簋)。
  「豐邢叔」は人名。
⑯集成08.4280《元年師𬀈𣪘》:“備于大𠂇(左)官𤔲(司)還。
  「豐還」は地名。
⑰集成05.2546《輔伯𬌄父鼎》:“輔白(伯)𬌄父乍(作)孟㜏賸(媵)鼎。
  「豐孟㜏」は人名。
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上は「豊」に従う「醴」字と、「豐」に従う「𫿩」字。
⑱集成05.2807《大鼎》(周中):“王鄕(饗)
⑲集成15.9726《三年𤼈壺》(周中):“鄕(饗)
⑳集成15.9572《𬋺仲多壺》(周晩):“𬋺(唐)中(仲)大乍(作)壺。
㉑集成15.9656《伯公父壺蓋》(周晩):“白(伯)公父乍(作)弔(叔)姬壺。
㉒集成01.49《㪤狄鐘》(周中晩):“𫿩〓𬉖〓降。
㉓集成01.110《丼人𡚬鐘》(周晩):“𫿩〓𬉖〓。
西周金文では「豊」「豐」に字形差は見られない。


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上は楚系文字。
①曾侯乙墓竹簡75:“馭王車。
  初期の字体。上博六《天子建州》ではこの字体が用いられる。晋系文字もこの字体に近い。
②郭店楚簡《語叢一》16:“又(有)仁又(有)智,又(有)義又(有)豊(禮),又(有)聖又(有)善。
  上部が「𦥔」の字体。楚簡ではこの字体が一番多く見られる。
③郭店楚簡《語叢一》33:“豊(禮)生於牂,樂生於亳。
  上部が「臼」の字体。例は少ない。上博七《凡物流形》ではこの字体が用いられる。
④郭店楚簡《六德》26:“豊(禮)、樂,共也。
  上部が「艹」のような字体。郭店《性自命出》、郭店《六德》ではこの字体。
  また、郭店《緇衣》、上博一《緇衣》では上部が「井」のような字体が用いられている。
⑤上博楚簡二《容成氏》48:“、喬(鎬)之民䎽(聞)之,乃降文王。
  清華四《別卦》の「酆」の字形はこれに近い。
⑥上博楚簡三《周易》51:“九四:丌(其)坿(蔀),日中見斗,遇丌(其)𡰥(夷)宔(主),吉。
  包山楚簡にはこれに縦棒が入った字体が用いられている。
楚系文字では「豊」と「豐」は字形が区別されている。


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上は秦系文字。
①近出二1197《王七年上郡守疾戈》(318BC):“王七年,上郡守疾之造。□
②《西安相家巷遺址秦封泥的發掘》圖十六9:“
③詛楚文(戰晩):“使介老將之,以自救殹(也)。
④《秦陶文新編》1148(秦):“
⑤璽印集成・三一・GY-0002
⑥秦陶2977《秦封宗邑瓦書》(334BC):“取杜才(在)邱到潏水。
秦系文字では「豊」と「豐」は字形が区別されている。


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