2016/01/11

字典類の紹介5《先秦貨幣文字編》

呉良寶 編纂 (2006/3) 《先秦貨幣文字編》 福建人民出版社

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めっちゃ薄い。

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 本書は春秋・戦国時代の貨幣銘文を字毎に配列したものである。各字形は拓本・あるいは写真をそのまま切り貼りしたもの(ゴミ取りはしていない)。
 本文のデザインはおおむね《古幣文編》を踏襲している。各字形には貨幣の種類・釈文・出典が付してある。同一字種内は貨幣のおおよその時代順に並んでいる。
 配列は説文順、卷一~卷十四のあとに合文・附録(隷定不可字)がある。また巻末に筆画索引がある。附録は索引からは検索不可能である。
 《古幣文編》をもとにしているので基本的に《古幣文編》よりは優れている。しかし《先秦貨幣文編》よりは一字あたりの字例が少ない。ただ貨幣の種類が記載されておらずまた出典がわかりづらい《先秦貨幣文編》と比べると、総合的な貨幣写真集を出典とする本書は字体と貨幣の種類との関連付けがしやすいといえる。
 値段は98元(2000元弱)、日本で買うと6000円くらい。

字典類の紹介4《古陶字録》

高明、涂白奎 編著 (2014/9) 《古陶字録》 上海古籍出版社

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わりと薄い。



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 前の記事の《陶文字典》同様、陶文の字書である。《陶文字典》と異なるのは、各字形がコンピューター処理(ゴミ取り等)後に白黒反転したものになっている点である。また、戦国・秦代に限らず商・周代の陶文も収録している。出典は《古陶文彙編》が中心だが《陶文圖録》ほか多くの拓本集から収録している。
 各字形には出土地・出典・時代が付してある。出土地はどの国で用いられた字体なのかの手がかりとなるのでありがたい。ごく一部の字には軽い解説がある。
 この字書は左ページから読むようになっている(珍しい)。配列は第一編「單字」は康煕字典順に近いがよくわからない順番になっている。第一編のあとに第二編「合文」・第三編「附録」(隷定不可字)がある。巻末に筆画索引がある。第三編の字は検索不可能。
 薄さからわかるように字例はかなり少ない。「きれいな字が見られる」という点がこの字書の利点だろうか。
 値段は148元(3000円弱)、お手頃価格だ。日本で買うと8000円くらい。

2016/01/10

字典類の紹介3《陶文字典》

王恩田 編著 (2007/1) 《陶文字典》 齊魯書社
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一般的な字書って感じの厚さだと思う。



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 本書は戦国・秦代の陶文(陶磁器・土器の銘文)を字毎に配列したものである。各字形は拓本をそのまま切り貼りしたものであり(ゴミ取りはしていない)、出典は全て王恩田《陶文圖録》である。よって模写である《古陶文字徴》より正確な字形を見ることができる。
 各字形には出典の番号が付してある。また一部の字形にはわりと丁寧に解説がついている。
 配列は説文順、卷一~卷十四のあとに合文・附録(隷定不可字)がある。また巻末に筆画索引がある。附録が字典の半分くらいを占めているが配列順が全くわからず例によって検索不可能である。
 《陶文字典》はその10年以上前に出版された《古陶字彙》のアップデート版として出版されたもの(内容だけでなく本文のデザインが酷似している)だが、《古陶字彙》に比べると字例が少ない印象をうけるので、《古陶字彙》と共に使うのが良いかもしれない。ちなみに《陶文字典》ももう九年前なので旧釈が目立つ。

2016/01/08

字典類の紹介2《新金文編》

董蓮池 編著 (2011/10) 《新金文編》 作家出版社

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でかいし重い
箱のサイズがきついので中卷の箱が壊れた



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 配列は説文順、亥部の後に合文・附録一(図象)・附録二(隷定不可字)がある。同一字種内は字体別に分けられ、同一字体内は時代順、同一時代内は出典番号順に並んでいる。例によって附録部分は検索不可能、配列順もよくわからないので不便。また例えば「犬」字は正編P1403に掲載されているが、それとは別に附録一P124にも存在するというわかりにくさもある。巻末に筆画索引と拼音索引がある(が上述したように例えば「犬」を引いても附録一P124には辿りつけない)。
 各字形は拓本を切り貼りしただけである(《新甲骨文編》や二玄社の各書道字典のような「ゴミ取り」はされていない)。《金文編》のような模写は誤りが生まれるからよくないとか序文に書いてあったと思う。よってなるべく拓本のきれいな字のみを収録している。また特殊な字体のものや学説が一定していないものは収録を避けているようである。ちなみに日本で出ている書道字典の多くは《金文編》の字形を用いているようだ。小學堂金文の字形も《金文編》をトレースしたものである(《新金文編》をトレースしたものも一部ある)。
 各字形には器名・時代・出典が併記してある。一部の字には軽い解説や釈文が載っていたりする。器名が問題で、特に器名に通仮字が含まれる場合に、出典とは異なる名前を掲載しているものが多くあるので注意が必要。
 出版は2011年10月だが実際の編纂作業は2010年秋に終わった模様。5年もたつと旧釈がところどころ目立つ。
 値段は1986元(約35000円)。日本で買うとおそろしい値段になる。

2016/01/07

字典類の紹介1《新甲骨文編(增訂本)》

漢字好きのみなさんの散財に役に立てるように僕の持っている字典類の紹介をしたいと思う。

劉釗、洪颺、張新俊 編纂 (2009/5) 《新甲骨文編》 福建人民出版社
劉釗 主編 (2014/12) 《新甲骨文編(增訂本)》 福建人民出版社

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��一般的な漢和辞典とくらべてでかい・厚い・重いという図)



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��本文はこんな感じだという図)
 字種の配列は説文順、説文にない字(*付きの字)はどれかの部の最後に配列され、亥部の後に合文部と附録部(隷定不可字)がある(中国の古文字編はだいたいこの配列)。同一字種内は字体別に分けられ、同一字体内は類組の時代順、同一組内は出典の番号順(增訂本のみ)に配列されている。附録部の配列は《殷墟甲骨刻辭類纂》に基づいている。
 各字形は拓本をコンピューターで処理した後に白黒反転したものを用いている。よって今までの《甲骨文編》《甲骨文字典》《甲骨文字編》等の模写字形より正確な字形であるといえる(ただし筆画が誤って傷などと判定され消されてしまっている字形も極希にある)。ちなみに日本で出ている書道字典の多くは《甲骨文編》の字形を用いているようだ。小學堂甲骨文の字形も《甲骨文編》をトレースしたものである。
 各字形には出典と類組が併記してあるが、この部分に結構誤植があったりする。
 字例をもう少し多くできなかったのか、というのが気になる所。おそらく分冊にしたくなかったのと編集の手間を考えて、なるべく拓本がきれいな字形のみに絞ったのだろう。ちなみに拓本の出典以外の参考文献が一切書かれていないので釈字に疑問をもっても解決できない。また附録部は索引もなく検索不可能なため目的の字を発見するのが難しい。
※增訂本の旧版との違いは、装丁や紙質の上昇(と共になぜかカバーがなくなった)、栞(赤い紐)の追加、新出土資料及び新研究考釈の取り入れ、各字形の類組の配列順の変更、各字形の同一組内の配列順の変更、部首目録の追加、筆画索引の同一画数内の配列順の変更。
 気になるお値段は旧版が280元(約5000円)、增訂本が330元(約6000円)。これに送料やら手数料やらがついて日本で買うと15000円くらいするみたい。

2015/10/30

略字メモ 分類1、同音代替

「同音代替」略字とは同音あるいは近音のより簡便な字を借りる、その字に統合する、といった方法である。
この利点は、新しく字体を生み出す必要がないことであろう。初見でも読むことが可能で、意味も文脈から推理しやすい。また覚えやすい。



以下、AはBの略字である。
1.A-Bが古今字の関係。
古今字とは、「昔はAと書いていたが、後にBと書くようになった」というようなA-Bの関係である。つまり、Aの方がBより歴史が永く続いている、かつA→Bの繁化が直列であるもの。
 「採→采」:「采」は「摘み取る」の意味。後に意符として「手」を加えて「採」となった。再び「采」に簡化。
のように別字種と捉る人もいるであろう組と、
 「醤/醬→酱/𨡓」:「酱」は「爿」が声符、「肉」「酉」が意符。後に上部が声符として「將」に換わった。再び「酱」に簡化。
のように明らかに同字種の組がある。
要はこの記事のシリーズで紹介する簡化方法と同じ方法で繁化された字を再び簡化しなおしたものである。なのでこれ以上の細かい分類や例は挙げない。
2.A-Bが近義。
AとBの字義に関連性があるもの、ありそうなもの。
 「穫→獲」:「穫」は作物を収穫すること。「獲」は動物を捕らえること、転じて得ること全般。画数が少なく意味の広い「獲」に統合。
のように声符が共通することが多い。歴史的経緯を調べないと1と区別しづらい。また、声符が異なるものでは
 「後→后」:甲骨文では「後」も「后」も「あと」の意味だが用法は異なる。画数の少ない方の「后」に統合。
 「衝→沖」:「衝」は「道が通り抜ける」こと、「沖」は「水が湧き出る」こと。どちらも転じて「突く」という意味を派生した。画数の少ない方の「沖」に統合。
のような例がある。
3.A-Bに関連性なし。
1と2以外のもの。関連性なしといっても、
 「囉→羅」:「囉」は「囉唆」「囉嗦」でくどいさま。「羅」は「網」。声符の「羅」に統合。
のようにAがBの声符でありながら意味に関連性が見出せないものや、
 「孃→娘」:「孃」は「母親」、「娘」は「少女」のこと。画数の少ない「娘」を借りた。
のように、字義からか意符が同じ字を借りるものもある。
 「鞭→卞」:「鞭」は「むち」、「卞」は「法」のこと。画数の少ない「卞」を借りた。
の両字は全く関係がないが、「卞」は使用頻度の割に画数が少ない、「鞭」は使用頻度の割に画数が多い、という理由から常用された。このように、使用頻度と画数のバランスは繁・簡字の対象となりえるかどうかに影響する。
4.特殊系
 「舊→旧」:「旧」は「臼」が変化したもの。「舊→臼」は3の例となるが、「舊→𦾔→旧」という経緯である。
 「靈→灵」:単純な「靈→灵」は3の例となるが、「靈→𩃏→灵」という経緯である。
 「義→义」:「乂」は「治める、安定する」こと。「義→乂」は3の例。「乂」との特別のために点を加え「义」とした。
のように経緯が複雑なもの。「衛→卫」も分類が難しい。「鬭→斗」は「靈→灵」と同じ例。
ちなみに最初は1と2の間に「AがBの声符」というものを作っていたが1234のどれかに分けられるので削除した。
甲骨文では結果的に1が多い。3は「咎→求」等少数。簡牘では同音代替字がかなり多い。

2015/10/24

「略字」メモ

「略字」とは、「異体字のうち、簡単なもの」である。

「異体字のうち、簡単なもの」であっても「略字」と言える場合と言えない場合とがある。
例として、「廣」と「広」と「广」について考える。「「広」は「廣」の略字である」、「「广」は「廣」の略字である」ことには異論がないだろう。しかし、「「广」は「広」の略字である」というと違和感があるのではないだろうか。これは、歴史的経緯を考えた時に、「广」は「広」からできたわけではないからである。ただ、「体」も「體」からできたわけではないが、「「体」は「體」の略字である」とはいえる。「体」の歴史的経緯は「體→軆→躰→体」であり、「體」と「体」は直接の関係がないが、一本の流れ上にある。これをいま直列的な異体字であるという。「广」の場合は「廣→広→广」ではなく「廣→広,廣→广」という経緯であり、並列的である。
「AはBの略字である」というにはAとBが直列的な異体字であることが条件だといえる。

また、「簡単なもの」というのはかなり主観的である。
「画数が減る」というのが典型的な例の一つでは有る。ただ画数が減らなくても罕用部件を常用部件に換えたものや、声旁をわかりやすいものに換えたものなどは画数が大幅に増えていなければ簡単になったといえるだろう。