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2018/11/21

「労(勞)」の字源

2018年11月18日付日本経済新聞の以下の記事に「労」についての記述があった。

(遊遊漢字学)二宮尊徳像なき時代の「勤労」 阿辻哲次 :日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO37843480W8A111C1BC8000/
「労」(本来の字形は「勞」)は二つの《火》と《冖》(家の屋根)と《力》からできており、その解釈にはいくつかの説があるが、一説に屋根が火で燃える時に人が出す「火事場の馬鹿力」の意味から、「大きな力を出して働く」ことだという。
この記事を書いた阿辻氏が編集に加わっている『新字源』改訂新版には以下のようにある。
力と、熒(𤇾は省略形。家が燃える意)から成る。消火に力をつくすことから、ひいて「つかれる」、転じて「ねぎらう」意を表す。
上記の説は《説文》段注をもとにしたものと思われるが、誤りである。

このほか、インターネットサイトや字書・辞典等で「労(勞)」の字源を「熒+力」としているものが多いが、「労(勞)」は「熒」とは無関係であり、みな誤りである。

2018/07/16

「辛」の字源は「入れ墨に用いる針」ではない

漢字カフェ」内の以下の記事に「辛」字の字源についての記述があった。

あつじ所長の漢字漫談35 激辛もほどほどに | コラム | 日常に“学び”をプラス 漢字カフェ
http://www.kanjicafe.jp/detail/8099.html
 トウガラシなどのからい味を「辛」という漢字で表現しますが、この「辛」は、もともと入れ墨を入れるのに使う針をかたどった文字でした。
 この入れ墨を入れるために皮膚を傷つけるのに使われるのが「辛」という針で、そこから「辛」が「罪」という意味をあらわすようになりました。このように「辛」が犯罪人に対する刑罰の意味に使われ、そこから「つらい」という意味をあらわし、そこからさらに意味が拡張したのが、味覚の「からさ」なのです。
この、「辛」字の本義が「入れ墨を入れるのに使う針」であるというのは、文字学的説得力を持たない、誤った推論と根拠のない憶測による説である。


2018/01/15

殷墟甲骨文中の「遠」「𤞷(邇)」と関連字

この記事は裘錫圭氏が1985年に発表した論文《釋殷墟甲骨文裏的“遠”“𤞷”(邇)及有關諸字》(以下《遠邇》)を和訳したものである。
裘錫圭が《遠邇》の初稿を書いたのは1967年のことであるが、この文章は結局発表されなかった。その後、1982年9月に《屯南》等の新出資料の発見に従って文章を書き改め、この《遠邇》は1985年《古文字研究》第十二輯において発表された。1992年、裘錫圭の著作集である《古文字論集》に収録されるにあたって末尾に追記が加えられた。1994年《裘錫圭自選集》にも収録されている。2012年《裘錫圭學術文集・甲骨文卷》に収録されるにあたりさらに注釈が加えられ、卜辞の出典には《合集》の番号が加えられた。2015年には《中西學術名篇精讀・裘錫圭卷》に収録され、陳劍氏による新出資料や研究成果にもとづいた注釈が加えられた。
いま《中西學術名篇精讀・裘錫圭卷》収録の文章に基いて《遠邇》を和訳したものをここに公開する。ただし、翻訳は原文に忠実ではない。新出資料や研究成果に従い、文章を追加・削除・書き改めるなどした。また比較的古文字に不慣れな読者でも理解できるよう一部には詳しい解説を加えた。

先に《遠邇》の要旨を述べておく。
甲骨文中に以下の諸字がある。
A」は「遠」、「a」は「袁」の古文字である。「袁」は「衣+又」及び追加声符「〇(圓)」からなり、{擐【服を着る】}の表意初文である。「袁」「遠」はともに、卜辞中では{遠【遠い・遠く】}或いは固有名詞(人名・地名)として用いられている。
C」「D」「E」は「埶」の古文字で、「𠬞(又/𦥑)+木(屮/个)+土」からなり、{藝【植える】}の表意初文である。卜辞中では「C」は本義{藝}、「D」は{設【設置する】}として用いられている。
B」「F」は「埶」に「犬」を加えた字で、西周金文の「𤞷」字であり、卜辞中では{邇【近い・近く】}あるいは固有名詞(地名)として用いられている。{邇}には「B」が、固有名詞には「F」が多用される傾向がある。

裘錫圭は《遠邇》文において、幾多の文字学的証拠を挙げて上記考釈が正しい(であろう)ことを証明している。いま世間では文字学的証拠に欠けたトンデモ字源説などが流布しているが、この《遠邇》文を通して、古文字考釈とはどのように行われるのか、「文字学的証拠」とはなにか、といったことを読み取って欲しい。
知識は関連書籍や論文を読むことで積み重ねていくものである。しかし、多少興味はあるという程度の層や、最近学び始めた者などは、どこから手をつけていいかわからないかもしれない。そこで、容易に手がとれるように日本語に翻訳した上で、いま一編の論文を例として取り上げる。裘錫圭《遠邇》を取り上げたのは、この論文に古文字考釈において重要な要素が多く詰め込まれているからである。この記事によって、初学者の最初の一歩のハードルが下がることにつながれば幸いである。

(以下、正文)

2017/09/17

字典「史」

「史」

釋義

甲骨文

「史」は武官、あるいは使者とする説が広く受容されているが、異説は少なくない。
また、名詞{事}、動詞{使}に用いられる。
  1. 名:職官名。また、使者。
    貞:方其[⿶戈屮](翦)我
     貞:方弗[⿶戈屮](翦)我
     貞:我其[⿶戈屮](翦)方。
     貞:我弗其[⿶戈屮](翦)[方]。
    《合集》9472正;賓一

    己未卜,古,貞:我三史(使)人。
     貞:我三不其史(使)人。
    《合集》822;賓一
  2. 名:できごと。事象。事情。=事
    癸亥卜,爭,貞:灷𬅶化亡𡆥(憂),由(堪)王史(事)。
     貞:灷𬅶化亡𡆥(憂),由(堪)王史(事)。
     灷𬅶化其㞢(有)𡆥(憂)。
     貞:灷𬅶化亡𡆥(憂),由(堪)王史(事)。十月。
     灷𬅶化其㞢(有)𡆥(憂)。
    《合集》5439正;賓一

    辛卯卜,貞:今四月我又(有)史(事)。
    《合集》21666;子組
  3. 名:人名。
    丙寅卜,,貞:今夕亡𡆥(憂)。
    《合集》16584;賓三

    壬辰卜,内,貞:今五月㞢(有)至。
     今五月亡其至。
    《合集》13579反;賓一
  4. 動:つかわす。派遣する。出向かせる。=使
    己未卜,古,貞:我三史史(使)人。
     貞:我三史不其史(使)人。
    《合集》822;賓一

    庚申卜,古,貞:王史(使)人于䧅,若。王占曰:吉,若。
    《合集》376正;賓一

金文

「内史」は内史寮の長官で、主に王に伴う職務を行った。「太史」は太史寮の長官で、儀礼に参加したり、立法・気象観測・卜筮等を行ったとされる。金文では内史・太史等の官僚をまとめて「史」と称し、名前の前につけて「史某」の形で用いられる。
  1. 名:職官名。
    乙亥,王𫌲(誥)畢公,廼易(賜)𬛥貝十朋。
    史𬛥簋,《銘圖》04986-04987;周早

    孝𬁡(友)𤖣(牆),𡖊(夙)夜不彖(惰),其日蔑[⿸𠩵口](懋)。
    史牆盤,《銘圖》14541;周中

    易(賜)女(汝)、小臣、霝龠(籥)鼓鐘。
    大克鼎,《銘圖》02513;周晩
  2. 名:できごと。事象。事情。=事
    自今余敢夒(擾)乃小大史(事)
    𠑇匜,《銘圖》15004;周中
  3. 名:人名。また、族名。
    史鼎,《銘圖》00017-00045;商晩

    𦛛(薛)𥎦(侯)戚乍(作)父乙鼎彝,
    薛侯戚鼎,《銘圖》01865;商晩
  4. 動:つかえる。=事
    𩛥(載)乃且(祖)考史(事)先王,𤔲(司)虎臣。
    虎簋蓋,《銘圖》05399-05400;周中
  5. 動:つかわす。派遣する。出向かせる。=使
    余令(命)女(汝)史(使)小大邦。
    中甗,《銘圖》03364;周早

    隹(唯)王𠦪于宗周,王姜史(使)叔事(使)于大(太)𠍙(保)。
    叔簋,《銘圖》05113-05114;周早

    用𬯚(尊)史(使)于天宗,用卿(饗)王逆[⿺辶舟](復),用匓寮(僚)人。
    作册夨令簋,《銘圖》05352-05353;周早
  6. 動:しむ。ある対象に何かをさせる。=使
    𨕘從師雍父𫵔史(使)𨕘事(使)于㝬(胡)𥎦(侯)。
    𨕘甗,《銘圖》03359;周中
  7. 「内史」「内史尹」:職官名。内史寮の長官。
    隹(唯)三月,王令𬊇(榮)眔内史曰:“[⿱𦵯廾](介)井(邢)𥎦(侯)服。”
    榮簋,《銘圖》05274;周早

    王各(格)于大(太)室,師毛父即立(位),丼(邢)白(伯)右,内史册命。
    師毛父簋,《銘圖》05212;周中

    [⿰𠂤⿳日夂土]白(伯)右師兑,入門,立中廷,王乎(呼)内史尹册令(命)師兑。
    三年師兑簋,《銘圖》05374-05375;周晩
  8. 「大(太)史」:職官名。太史寮の長官。
    大(太)史乍(作)姬𬍢寶𬯚(尊)彝。
    公太史鼎,《銘圖》01824-01826;周早

    隹(唯)十又三月庚寅,王才(在)寒[⿰𠂤朿](次),王令大(太)史兄(貺)䙐土。
    中鼎,《銘圖》02382;周早

    隹(唯)公大(太)史見服于宗周年。
    作册䰧卣,《銘圖》13344;周早

楚簡

書籍簡においてはほとんど{使}に用いられる。司法文書である包山簡には102「正史」、138「大史」、158「右史」等の職官名が見られる。
  1. 名:史官。太史。
    是𫊟(吾)亡(無)良祝、也。𫊟(吾)𢼽(欲)䜴(誅)者(諸)祝、
    上博六《景公瘧》2

    乃册祝告先王曰。
    清華壹《金縢》2
  2. 名:姓。
    九月辛亥之日,彭君司敗善受[⿱几日](幾)。
    包山《受幾》54

    辛亥,妾婦監、[⿱𬐇心](懌)、䣓人秦赤。
    包山《所属》168

    辛巳,[⿺辶卜]𫾽(令)[⿸疒𢍏](𤷄)、𦸗尹毛之人、郯[⿰⿺𠃊炎戈](列)尹[⿱⿰炅匕黽]之人。
    包山《所属》194
  3. 動:つかえる。=事
    胃(謂)之【臣】,㠯(以)[⿱宀忠](忠)史(事)人多。
    郭店《六德》17

    奠(鄭)壽告又(有)疾,不史(事)
    上博六《平王問鄭壽》4
  4. 動:つかう。用いる。使用・運用する。=使
    胃(謂)之君,㠯(以)宜(義)史(使)人多。
    郭店《六德》15

    先﹦(先人)[⿱之所]﹦(之所)史(使)
    上博五《季康子問於孔子》12

    はたらかせる。使役する。=使
    至亞(惡)何(苛),而上不旹(時)史(使)
    上博五《鮑叔牙與隰朋之諫》7
  5. 動:つかわす。派遣する。出向かせる。=使
    孤史(使)一介史(使)
    上博七《吴命》4
  6. 動:しむ。ある対象に何かをさせる。=使
    民可史(使)道之,而不可史(使)智(知)之。
    郭店《尊德義》21-22

    亓(其)甬(用)心各異,[⿱爻言](教)史(使)肰(然)也。
    郭店《性自命出》9

     亓(其)甬(用)心各異,[⿱爻子](教)史(使)肰(然)也。
    上博一《性情論》4

    季𬨤(桓)子史(使)中(仲)弓爲[⿸宰刃](宰)。
    上博三《仲弓》1

釋形

「中*」と「又」に従い、何かを持った形。「中*」の構意は諸説あり定説はない。「中*」を「中」とみなす説があるが、両字は形が異なっており、また卜辞中の「中*」字の用法は「史」と同じで「中」のそれとは異なる。「中*」と「史」が同用法であることから、「史」は「中*」に「又」を加えた形声文字である可能性もある。
甲骨文には四種の字体がある。Aは賓組以外で普遍的に用いられる字体で、後代にもこの字体が継承された。Bは賓組に用いられる字体で、上部が二叉の字。二叉が三叉に変化し、後代の「事」「吏」字になった。Cは刀卜辞に見られる横画を欠いた字体。Dは主に𠂤賓間に用いられる「又」を省略した字体だが、上述のように「史」の初形かもしれない。
西周中晩期の金文の字は中央の縦画の長さに多様性がある。𪠷𫲾簋(《銘圖》04962)の「𪠷」は羨符「口」を加えた異体字と思われるが、別字の可能性もある。
晋系文字は上部の縦画が「十」字のようになっている。楚系文字は「⿳卜甘又」の字体だが、「弁」と極めて近い字形のものもある。

釋詞

上述のように「史」「事」「吏」は一字分化であり、また字義・用例を見ても明らかなように、{史}{使}{事}{吏}は同源詞である。


2017/08/24

字典「才」

「才」

釋義

甲骨文

殷墟甲骨文では時間や地名を後に続けて{在}に用いられる。また{災}の用法が数例みられる。
  1. 名:わざわい。良くないこと。災害。=災
    乙卯,貞:今日亡才(災)
    《合補》10708;歷二

    辛丑,貞:王其獸(狩),亡才(災)
    《屯南》1128;歷二
  2. 前:~で。~に。ありて。場所・時間・範囲などを示す。=在
    己亥卜,旅,貞:今夕亡𡆥(憂)。才(在)十二月。
    《合補》8113;出二

    癸牛卜,才(在)盂貞:旬亡[⿰𡆥犬](憂)。王占曰:吉。
    《合集》36914;黄二

    [甲]午卜,大[,貞]:翌乙未其登,其才(在)祖乙〼
    《合集》22926;出二

金文

金文では「人名+才(在)+地名・位置」の用法が圧倒的に多い。
  1. 名:貨幣[1]。あるいは財貨。=財
    乙未,公大(太)保買大[⿰王⿳丅口丄](珠)于𦍎亞,才(財)五十朋。
    亢鼎,《銘圖》02420;周早

    矩白(伯)庶人取堇(瑾)章(璋)于裘衛,才(財)八十朋,氒(厥)賈,其舍田十田。
    裘衛盉,《銘圖》14800;周中
  2. 名:姓。
    父戊。
    才父戊爵,《銘圖》07845;商晩
  3. 動:ある。あり。場所・時間・範囲などを示す。=在
    己酉,王才(在)梌,𠨘其易(賜)貝。
    四祀𠨘其卣,《銘圖》12429;商晩

    才(在)亖(四)月丙戌,王𫌲(誥)宗小子于京室。
    何尊,《銘圖》11819;周早

    唯五月既死覇,辰才(在)壬戌,王[⿱宛食][于(?)]大(太)室。
    吕鼎,《銘圖》02400;周中

    隹(惟)九月,王才(在)宗周,令盂。
    大盂鼎,《銘圖》02514;周晩
  4. 副:はじめは。最初は。昔は。=載、在、哉
    才(載)先王既令(命)女(汝)乍(作)𤔲(司)土。
    師𬱊簋,《銘圖》05364;周晩
  5. 前:~で。~に。ありて。場所・時間・範囲などを示す。=在
    王易(賜)小臣𪺕(系),易(賜)才(在)𡨦(寢)。
    小臣系卣,《銘圖》13284-13285;商晩

    唯成王大𠦪(祓)才(在)宗周,商(賞)獻𥎦(侯)𬱑貝。
    獻侯鼎,《銘圖》02181-02182;周早

    隹(唯)八月辰才(在)庚申,王大射才(在)周。
    柞伯簋,《銘圖》05301;周中

    㝬其萬年,永㽙(畯)尹亖(四)方,保大令(命),作疐才(在)下,[⿰午卩](御)大福。
    五祀㝬鐘,《銘圖》15583;周晩
  6. 助:かな。句末に置いて感嘆を表す。=哉
    唯民亡𫹔(延)才(哉)!彝𫹻(昧)天令(命),故亡。允才(哉)!顯隹(唯)苟(敬)德,亡𠧠(攸)違。
    班簋,《銘圖》05401;周中

    師訇,哀才(哉)!今日天疾畏(威)降喪,首德不克[⿱聿乂](規)。
    師訇簋,《銘圖》05402;周晩

楚簡

楚簡では{在}のほか、語気詞{哉}としての用法も多い。
  1. 名:才能。はたらき。=材
    而[⿱宀⿰帚戈](寢)亓(其)兵,而官亓(其)才(材)
    上博二《容成氏》2
  2. 名:わざわい。災禍。=災
    [⿱化示](禍)才(災)迲(去)亡。
    上博二《容成氏》16
  3. 動:ある。あり。場所・時間・範囲などを示す。=在
    亓(其)才(在)民上也,民弗厚也;亓(其)才(在)民前也,民弗𡩜(害)也。
    郭店《老子》甲4

    庚之子𭧏一夫、𭧏之子疕一夫,未才(在)典。
    包山《集箸》8

    君子才(在)民之上。
    上博五《季庚子問於孔子》2

    [⿱七䖵](蟋)[⿱⿴行⿱幺止虫](蟀)才(在)[⿱竹石](席),𫻴(歲)矞員(云)茖(莫)。
    清華壹《耆夜》11
  4. 動:みる。視察する。=在
    士帀(師)𬪌(陽)慶吉啓漾陵之厽(三)鉩(璽)而才(在)之。
    包山《集箸》13
  5. 動:そこなう。害する。陥れる。=讒[2]
    所㠯(以)異於父,君臣不相才(讒)也,則可已。
    郭店《語叢三》3
  6. 副:ますます。さらに。=兹
    余既監于殷之不若,[⿴囗帀](稚)童才(兹)𢝊(憂)。
    清華伍《封許之命》8
  7. 前:~で。~に。ありて。場所・範囲などを示す。=在
    是古(故)凡勿(物)才(在)疾之。
    郭店《成之聞之》22

    取皮(彼)才(在)坹(穴)。
    上博三《周易・小過》56

    才(在)少(小)不靜(爭),才(在)大不𫬽(亂)。
    上博四《内禮》10
  8. 助:かな。句末に置いて感嘆を表す。=哉
    𢚝(噫),善才(哉),言[⿸虎口](乎)!
    郭店《魯穆公問子思》4

    才(哉)
    上博三《彭祖》1

    於(嗚)[⿸虎口](乎),丁,戒才(哉)
    清華伍《封許之命》7
  9. 助:か。や。句末に置いて疑問を表す。また「安」等と呼応して反語を表す。=哉
    察丌(其)見者,青(情)安[⿺辶⿱止㚔](失)才(哉)
    郭店《性自命出》38

    公身爲亡(無)道,不[⿺辶戔](遷)於善而敚(説)之,可[⿱虎口](乎)才(哉)
    上博五《競建内之》6

    今天下之君子既可智(知)已,䈞(孰)能并兼人才(哉)
    上博四《曹沫之陣》5

    又(有)[⿹暊虫](夏)之悳(德)可(何)若才(哉)
    清華伍《湯處於湯丘》12
  10. 助:よ。句末に置いて命令・奨励を表す。=哉
    於(嗚)[⿸虎口](乎),敬才(哉)
    清華壹《程寤》6

    才(哉)
    清華壹《保訓》4

    [⿰苟戈](敬)才(哉),監于茲。
    清華壹《皇門》12

釋形

杙の象形で、「弋(杙)」から分化した字(何琳儀[3]・陳劍[4])。初期の甲骨文では短い縦画と下三角形からなる字形が多い。甲骨文で最も多く見られる字形は下三角形を長い縦画が貫いた形であるが、これは訛形であり、これに基づいて構意を説明するのは誤りである。
漢篆の例が少なく、説文小篆は隷書由来の字形であり秦篆とは異なる。

釋詞

陳劍は「弋(杙)」と「才」を一字分化とするが、詞義については触れていない。
「材」「財」は「才質、才智」といった意味を持ち、同源である。


2017/08/19

字典「士」

「士」

釋義

甲骨文

官名を表す。人名の前につける。
  1. 名:職官名。
    甲子卜,賓,貞:[⿱匕鬯]酒才(在)疾,不从古。
    《合集》9560;賓三

    庚午卜,出,貞:[⿱㞢八]曰:以賈齊,以。
    《英藏》1994;出一

金文

男性および官名を表す。
  1. 名:おとこ。(成人)男子の通称。
    王令(命)南宮率王多
    柞伯簋,《銘圖》05301;周中

    敺(毆)孚(俘)女、羊牛。
    師㝨簋,《銘圖》05366-05367;周晩
  2. 名:才能のある人。
    咸畜胤
    秦公簋,《銘圖》05370;春早

    余咸畜胤
    晋公盆,《銘圖》06274;春晩
  3. 名:職官名。人名の前につける。
    王令衜(道)歸(饋)貉子鹿三。
    貉子卣,《銘圖》13319;周早

    戍右殷立中廷。
    殷簋,《銘圖》05305-05306;周中

    王乎(呼)曶召克。
    克鐘,《銘圖》15292-15297;周晩
  4. 名:軍士。兵士。
    凡興被(披)甲,用兵五十人以上。
    新郪虎符,《銘圖》19176;戰晩

    凡興被(披)甲,用兵五十人以上。
    杜虎符,《銘圖》19177;戰晩

楚簡

人の汎称、また役人の意味に用いられる。
  1. 名: おとこ。(成人)男子の通称。また、ひと。
    又(有)志於君子道胃(謂)之𠱾(志)
    郭店《五行》7

    [《清𫳝(廟)》曰:“肅雝顯相,濟濟]多,秉文之德。”
    上博一《孔子詩論》6

    𠭯奮甲,殹(繄)民之秀。
    清華壹《耆夜》5
  2. 名: 才能のある人。賢い人。
    躳(躬)與凥(處)𪣬(館)。
    上博五《苦成家父》1
  3. 名:卿士。役人。
    姑(苦)城(成)[⿱爪家](家)父事[⿰⿻木𦥑攵](厲)公,爲
    上博五《苦成家父》1
  4. 「士尹」: 職官名。司法官。
    壬寅,五帀(師)士尹宜咎。
    包山《所属》185

    里公邞眚(省)、士尹紬[⿱𠦉診](慎)[⿱反止](返)孑。
    包山《集箸言》122

    士尹□□之。
    夕陽坡1
  5. 「士𠂤(師)」: 職官名。司法官。
    士帀(師)墨、士帀(師)𬪌(陽)慶吉。
    包山《集箸》12

釋形

斧鉞の象形。甲骨文では「王」と字体を共有していたが、のちに分化した(林沄)。
漢代には中部両側に点を加えた字がみられる。

釋詞

甲骨文や戦国晋系文字では「在」が{士}に用いられており、{才}と{士}は同源詞である可能性がある。


2017/08/15

字典「采」

「采」

釋義

甲骨文

特定の時間帯を表す「大采」「小采」の語に用いられる。一期甲骨文にしか見られず、以降は「朝」「莫(暮)」など別の用語に取って代えられたようである。
  1. 「大采」「大采日」:時間詞。朝方。
    癸亥卜,貞:旬。一月。昃雨自東。九日辛未大采各云(雲)自北。
    《合集》21021;𠂤小

    丙午卜:今日其雨。大采雨,自北延[⿰戌大],少雨。
    《合集》20960;𠂤小

    乙卯卜,㱿,貞:今日王往于𦎫〼之日大采雨,王不[步]〼
    《合集》12814正;典賓

    乙卯卜,㱿,貞:今日王往于〼之日大采雨,王不〼
    《合補》3643正;典賓
  2. 「小采」「小采日」:時間詞。日暮れ頃。
    癸巳卜,王:旬。四日丙申昃雨自東,小采既。
    《合集》20966;𠂤小

    丁未卜:翌日雨。小采雨,東。
    《合集》21013;𠂤小

    今日小采允大雨。
    《合集》20397;𠂤小

    癸亥卜,貞:旬。乙丑夕雨。丁卯夕雨。戊小采日雨,風。己明啟。
    《合集》21016;𠂤小

金文

西周における「采」は周王から貴族に与えられた土地を指す。他の賜与地と異なるのは、采主は租税を徴収したり服役を課したりすることができたものの土地の管理運営には携わらず、采の統治権はなお王室の下にあることである。
  1. 名:采地。 王から貴族に与えられた土地。
    今兄(貺)畀女(汝)䙐土,乍(作)乃
    中鼎,《銘圖》02382;周早

    王才(在)𢇛,易(賜)[⿺走𠳋](遣)
    遣卣,《銘圖》13311;周早

    [⿸户貝](胥)朕[⿸疒㚔]田、外臣僕。
    聞尊,《銘圖》11810;周早

楚簡

{彩}{綵}の意味に用いられる。郭店《性自命出》「」を上博一《性情論》は「」に作る。
  1. 動: みだれる。=㥒
    不又(有)夫柬﹦(簡簡)之心則
    郭店《性自命出》45
  2. 「采(綵)勿(物)」:彩色を施した旌旗・衣服など。その彩色によって貴賤を区別した。
    𪴨﹦(業業)天[⿱陀土](地),焚﹦(紛紛)而多采(綵)勿(物)
    上博三《恒先》8

    恙(祥)宜(義)、利丂(巧)、采(綵)勿(物),出於[⿱乍又](作)。
    上博三《恒先》7

釋形

「爪」(手の象形)と、「木」または「枼(あるいは“㕖”[1])」からなり、手で葉(あるいは実)を摘み取るさまの象形で、「採」の初文。甲骨文の二種の字体のうち、ただの「木」に従う字体が後代に引き継がれた。

釋詞

「采」声字は「取る」「彩る」義を共有する。


2017/08/11

字典「再」

「再」

釋義

甲骨文

残辞に一例みえるのみで、意味は不明。
  1. 允〼
    《合集》7660;典賓

金文

西周期の例はない。「二番目」「二回目」「ふたたび」の意味で用いられる。「閏再某月」は二回目の月(閏月)のことで、秦簡にも同用法が見られる。
  1. 数:二度、二回。二回目、二番目。
    隹(唯)廿又祀。
    𠫑羌鐘,《銘圖》15425-15429;戰早

    元年閏十二月丙午。
    元年閏矛,《銘圖》17668-17669;戰晩
  2. 副:ふたたび。かさねて。もう一度。
    尸(夷)用或敢[⿱再口](再)𢱭(拜)𩒨(稽)首。
    叔夷鎛,《銘圖》15829;春晩

    𬯔(陳)喜[⿱再口](再)立(涖)事歲。
    陳喜壺,《銘圖》12400;戰早

    奠(鄭)昜、𬯔(陳)𠭁(得)立(蒞)事歲。
    陳璋壺,《銘圖》12410-12411;戰中

楚簡

「ふたたび」「くりかえし」の意味で用いられる。《芮良夫毖》にみえる「再終」は二組からなる詩のこと[1]
  1. 数:二度、二回。二回目、二番目。
    内(芮)良夫乃[⿱乍又](作)䛑(毖)夂(終)。
    清華叁《芮良夫毖》2

    𫊟(吾)甬(用)[⿱乍又](作)(作)䛑(毖)夂(終)。
    清華叁《芮良夫毖》28
  2. 動:くり返す。ふたたびおこる。
    䆤(窮)達以旹(時),𫲪(幽)明不
    郭店《窮達以時》15
  3. 副:ふたたび。かさねて。もう一度。
    [⿰忄𠤕](疑)取
    郭店《語叢二》49

    𢘓(謀)亡(無)小大,而器不利。
    清華叁《芮良夫毖》26
  4. 「再三」:何度も。たびたび。
    大(太)子再三,肰(然)句(後)並聖(聽)之。
    上博二《昔者君老》1

    [⿰才匕](必)再三進夫﹦(大夫)而與之[⿸虍皆](偕)[⿱⿴囗者心](圖)。
    清華陸《鄭武夫人規孺子》1

釋形

甲骨文は残辞で文意は不明だが、後代の字形や甲骨文の「冓」「爯」の下部との比較から「再」と見られている。構意には定説がなく、不明。
春秋戦国時代には意符「二」を加えた字体や、羨符「口」を加えた字体が見られる。
秦代の字形は下部が「肉」に似るが、漢代には直線化された。説文小篆は明らかに漢隷の字形から作られたもので、秦篆とは異なる。
六朝楷書では中央縦画を下まで伸ばす字体が用いられたが、説文小篆を楷書化した字体が《干禄字書》の正体・開成石経の規範字体とされ、以降の字書に引き継がれた。さらに《字彙》では中央横画が短くなり(理由不明)、これが康煕字典体および現在の規範字体のもととなっている。

釋詞

待考。


2017/08/06

字典「宰」

「宰」

釋義

甲骨文

五期甲骨文に「宰丰」が数例見えるのみである。「宰」は職名、「丰」は人名である。
  1. 名:職官名。
    王曰刞大乙[⿱隹示]于白麓𥑿丰。
    《合集》35501;黄一

    王易(賜)丰。
    《合補》11299反;黄一

金文

職官名。主に人名の前につけて「宰某」の形で用いられる。特に周中晩期に多く見られる冊命儀礼においては補佐を行い、銘文では「宰某右某,入門,立中廷。」のような文章が決まり文句になっている。
  1. 名:職官名。
    王[⿱火女](光)甫貝五朋。
    宰甫卣,《銘圖》13303;商晩

    𣍧(胐)右乍(作)册吴,入門,立中廷。
    作册吴方彝蓋,《銘圖》13545;周中

    引右頌,入門,立中廷。
    頌壺,《銘圖》12451-12452;周晩

楚簡

楚簡においては「刀」を加えた異体字が多く用いられる。「宰尹」は《韓非子・八説》で料理人とされているが、楚簡ではそのような記述はみえない。
  1. 名:職官。
    八月[⿱丙口](丙)戌之日,[⿸宰刂](宰)𥎵受[⿱几日](幾)。
    包山《受幾》36

    季𬨤(桓)子史(使)中(仲)弓爲[⿸宰刃](宰)
    上博三《仲弓》1

    史(使)[⿱隹吕](雍)也從於[⿸宰刃](宰)夫之𨒥(後)。
    上博三《仲弓》1

  2. 「太宰」:職官名。王の側近。楚では地方官。
    大(太)𠹼(宰)之駵(騮)爲左驂。
    曾侯乙《乘馬》175

    七夫﹦(大夫)所[⿱歐巿]大(太)𠹼(宰)[⿰匹馬]﹦(匹馬)。
    曾侯乙《敺馬》210

    新都南陵大(太)宰䜌(欒)[⿸疒首](憂)。
    包山《疋獄》102

    [⿱𢽟貝]尹皆紿[⿰紿⿹𠃌一]丌(其)言以告大(太)[⿸宰刂](宰)
    上博四《柬大王泊旱》19

    五(伍)員爲吴大(太)[⿸宰刂](宰)
    清華貳《繫年》第十五章83

    奠(鄭)大(太)[⿸宰刂](宰)[⿰忄旂](欣)亦𨑓(起)𥛔(禍)於奠(鄭)。
    清華貳《繫年》第二十三章131

    楚恭(共)王又(有)𨚮(伯)州利(犁),以爲大(太)宰
    清華叁《良臣》11
  3. 「宰尹」:職官名。地方に配置され、治獄(裁判)に関わっている。
    𠹼(宰)尹臣之騏爲右[⿰馬𤰇](服)。
    曾侯乙《乘馬》154

    𠹼(宰)尹臣之黄爲右[⿰馬𤰇](服)。
    曾侯乙《乘馬》155

    以[⿲彳乃攵][⿸宰刂](宰)尹[⿰弓𠓥]與〼。
    葛陵《卜筮祭禱》甲三356

    福昜(陽)[⿸宰刂](宰)尹之州里公婁毛受[[⿱几日](幾)]。
    包山《受幾》37
  4. 「少宰尹」:職官名。宰尹の副職。
    䢿(鄢)[⿱宀邑]夫﹦(大夫)命少[⿸宰刂](宰)尹鄩𫌳。
    包山《集箸言》157

    䢿(鄢)少宰尹𫑜〈鄩〉𫌳以此[⿱竹𠱾](志)至(致)命。
    包山《集箸言》157反


釋形

「宀」と「䇂」に従う。「䇂」は「乂」の初文で、草を刈る鎌の象形[1]。「宰」はおそらく「䇂」に「宀」を加えた形声字(樂郊)。下部の「䇂」は後代に近形の「辛」と同形となった。
下部を「辛」として罪人と結びつける説があるが、誤りである。

釋詞

「宰」と「䇂(乂)」は{割断}義を共有する。
  • 乂,《説文》十二篇下《丿部》「芟艸也。」(266上)
  • 宰,《慧琳音義》卷十八《十輪經》第三卷音義引《考聲》「大也,理也,制斷也。」(816下)
また{治理}義を共有する。
  • 乂,《爾雅・釋詁》「治也。
  • 宰,《玉篇》卷十一《宀部》「治也,制也。」(209)

「宰」「䇂」「司」はしばしば互いに交替する。
  • 《説文》六篇上《木部》「梓,楸也。从木,宰省聲。榟,或不省。」(111上)
  • 《説文》十四篇下《辛部》「辭,說也。𤔲,籒文辭,从司。」(311上)、兮甲盤「王令甲政𬋹(司)成周亖(四)方責(積)。」(《銘圖》14539)
  • 《龍龕》卷四《肉部》去聲「𦛛,俗。䏤,古。𦞤,今。」(413)
したがって{宰}、{䇂}、{司}はおそらく同源詞である。「宰」は「䇂」声字と考えられる。
ただし、「宰」の声符である「䇂(乂)」と後代の「乂」とは音が異なっており、或いは「䇂(乂)」は異音同義の二詞同居字かもしれない。


2017/07/28

字典「子」

「子」

釋義

甲骨文

殷墟甲骨文において「子」は非常によく見られる字であるが、「幼児」「子供」の用法はそこまで多くない。最も多いのは、「子某」のような人名の前(あるいは後)につく用法である。これが具体的に何を表しているのかは諸説紛紛であるが、何らかの地位・役職・称号であるという説が多い。
  1. 名:こ。子女。息子あるいは娘。
    辛丑卜,㱿,貞:帚(婦)好㞢(有)。二月。
     辛丑卜,亘,貞。王占曰:好其㞢(有)。[⿰丨卩](孚)。
    《合集》94正;典賓

    帚(婦)好毋其㞢(有)
     帚(婦)好㞢(有)。二月。
    《合集》13927;典賓

    壬辰卜,㱿,貞:帚(婦)良[其]㞢(有)
     貞:帚(婦)良[不]其
    《合集》13936正;典賓
  2. 名:こ。幼い動物。動物の子供。
    叀𩣫眔[⿲馬立犬]亡災。
    《合集》37514;黄一
  3. 名:称号の一種。人名の前や後につく。
    乙巳卜,[⿻大匚]:㞢(有)宋*〼
    《合集》19921;𠂤大

    丁卯卜,爭,貞:令效先于䀏。二月。
    《合集》3093;賓一

    丙寅卜,兄,貞:□令甗䇂。十月。
    《合集》23536;出一
  4. 動:やしなう。育てる。養育する。
    戊辰卜,爭,貞:勿[⿱至皀]帚(婦)[⿰女食]子。
    《合集》2783;賓三
十二支の1番目には「子」とは別の文字が使われている。
十二支の6番目として現れる字は字形が「子」に似ており後代には混用が見られるものの、初期の甲骨文では区別されている[1]。また、子組卜辞の主催者は「子」を自称しており、上記の「子某」と同じ意味と思われるが、字体は異なっている。
  1. 名:み。十二支の6番目。(用例略)
  2. 名:非王卜辞の主催者。
    甲申卜,貞:
    《合集》20857;婦女

    己亥,卜貞:我又(有)乎出?[⿰丨卩](孚)。
    《合集》21583;子組

    辛亥卜:曰:余丙速?
    《花東》475;花子

金文

周金文では「其子子孫孫萬年永寶用」の決まり文句が非常によく見られる。
  1. 名:こ。子女。息子あるいは娘。
    則尚(常)安永宕乃心,安永𧟟(襲)[⿹戈冬]身。
    [⿹戈冬]鼎,《銘圖》02489;周中

    虢宣公白乍(作)𬯚(尊)鼎。
    虢宣公子白鼎,《銘圖》02308;周晩

    余畢公之孫、郘(吕)白(伯)之
    郘𮮝鐘,《銘圖》15570-15582;春晩
  2. 名:男子の尊称。一般に姓の後につけるが、齊国では前後につける。
    不录(禄)嗌
    作册嗌卣,《銘圖》13340;周中

    吴季之子逞之兀(元)用鐱(劍)。
    吴季子之子逞劍,《銘圖》17950;春晩

    禾(和)
    子禾子釜,《銘圖》18818;戰早
  3. 名:称号の一種。族名・人名の前後につく。
    蝠。
    子蝠鼎,《銘圖》00470;商晩

    媚。
    子媚簋,《銘圖》03650;商晩

    雨。
    子雨觚,《銘圖》09316;商晩
  4. 名:族名。
    子觚,《銘圖》08887-08894;商晩

    父丁。
    子父丁爵,《銘圖》07818;商晩

    父乙。
    子父乙鼎,《銘圖》00776;周早
  5. 名:姓。また、人名用字。(用例略)
  6. 名:み。十二支の6番目。=巳 (用例略)
  7. 動:いつくしむ。慈愛する。=慈
    懿,父廼是子(慈)
    沈子也簋蓋,《銘圖》05384;周早
  8. 「子子孫孫」:子孫。あとの世代。「孫子」「子子孫」等とも。
    其萬年子﹦孫﹦其永寶用。
    郭伯捱簋,《銘圖》05203;周早

    子﹦孫﹦萬年永寶用。
    庚贏卣,《銘圖》13337-13338;周中

    逨㽙(畯)臣天子﹦孫﹦永寶用亯(享)。
    逨盤,《銘圖》14543;周晩
  9. 「子𠇷(姓)」:子孫。
    𬕝﹦(肅肅)義政,[⿰亻⿱王子](保)𫊣(吾)子𠇷(姓)。
    𦅫鎛,《銘圖》15828;春中
なお、十二支の1番目には「子」とは別の文字が使われている。

楚簡

楚簡では人名用字での例が多い。また、十二支の1番目として用いられ、6番目には用いられない。
  1. 名:こ。子女。息子あるいは娘。
    𢝫(喜)之庚一夫,凥(處)郢里,司馬徒箸(書)之。
    包山《集箸》7

    古(故)夫夫,婦婦,父父,子子,君君,臣臣,六者客(各)行其戠(職)。
    郭店《六德》23

    逆上汌(均)水,見盤庚之,凥(處)于方山。
    清華壹《楚居》1
  2. 名:尊称。姓の後につける。(用例略)
    また、官職名の前につける。
    司馬。
    包山《集箸言》145

    陵尹。
    包山《集箸》156

    左尹。
    包山《祭禱》224
  3. 名:孔子。
    曰:又(有)𬪇(國)者章好章亞(惡),以視民厚,則民青(情)不𥾐(忒)。
    郭店《緇衣》2

    曰:又(有)國者章𡥆(好)章惡,以眂(視)民厚,則民情不弋(忒)。
    上博一《緇衣》1
  4. 名:ね。十二支の1番目。(用例略)
  5. 名:いつくしみ。慈愛。=慈
    羕(養)心於子(慈)俍(良),忠信日嗌(益)而不自智(知)也。
    郭店《尊德義》21

    子(慈)生於眚(性),易生於子(慈)
    郭店《語叢二》23
  6. 名:めす。雌牛。また、雌の家畜。=牸
    大首之子(牸)䮑馬爲右[⿰馬𤰇]。
    曾侯乙《乘馬》147

    司馬上子(牸)爲左驂。
    曾侯乙《乘馬》151

    建巨之子(牸)爲右驂。
    曾侯乙《乘馬》172
  7. 「子女」:むすめ。美しい女性。
    母(毋)㤅(愛)貨資子女。
    上博四《曹沫之陣》2
  8. 「子犯」「子餘」「子産」「子儀」など:人名。(用例略)
    「子夏」「子羔」「子貢」「子羽」「子路」:人名。みな孔子の弟子。
    子[⿱日它](夏)曰:“敢[⿱宀𦖞](問)可(何)胃(謂)五至?”
    上博二《民之父母》2

    子羔曰:“可(何)古(故)以𠭁(得)帝?”
    上博二《子羔》1

    子贛(貢)曰:“否。”
    上博二《魯邦大旱》3

    子羽𦖞(問)於子贛(貢)曰:“中(仲)尼與𫊟(吾)子産䈞(孰)臤(賢)?”
    上博五《君子爲禮》11

    子𮞑(路)𨓹(往)[⿸虎口](乎)子。
    上博五《弟子問》19

釋形

大きく分けてABCDの四種の字体がある。うちBとCはかなり早くに区別が失われた。四種とも小さい子供の象形と考えられている。ただし、AとDが{子供・幼児}の意味に用いられた例はないことには注意しなければならない。
【殷墟甲骨文】
A:{十二支の第一位(ね)}に用いられる。A3が最も象形的な形で、A2やA1はそれを簡単にした形だと思われる。賓組や歷組ではA1の字体が受け継がれたが、後代の何組や黄組では複雑な字体に逆戻りしている。
BC:𠂤組甲骨文では{十二支の第六位(み)}にBを、{子供・幼児}にCを用いており、「子」に従う字もCの形であった。しかし後に混用され、子組ではほぼ全てB、賓組ではほぼ全てC、歷組ではB・Cの両方を区別なく用いている。最終的に黄組ではBが主に用いられている。
D:武丁期にみられる人名である。説文古文「㜽」と近形であることから、「子」の異体字とされている。ただし、この字は両周以降には見られないことから、説文古文「㜽」と直接の関係があるかどうかは慎重にならなければならない。
【西周金文】
A:甲骨文の字形よりさらに複雑な字体が用いられている。
BC:周代には字形変化があまりないが、時代が下るにつれて若干両腕が上がってきたり、上部が丸みのある四角形から後の三角形に近づいてきている。
【戦国文字】
戰國文字は多く上部が三角形になっている。素早く書いたものには上部三角形の一辺と下部縦画を一画とした字形が見られる。
晋系文字は腕を二画で書く特徴があり、清華叁《良臣》はこの特徴をよく受け継いでいる。また上博五《季庚子問於孔子》や、清華貳《繫年》の一部にもこの字体が見られる。
秦系文字は両腕を曲げた形が多い。
【秦漢】
秦隷でほぼ現在と同形となっている。篆書の面影を残した腕を曲げた字体も少数見られるが、後代には廃れた。

《康熙字典》では説文籀文を楷書化した字が多く収録されている。「𩐍」は誤って「自」の異体字とされているが、これも「子」の説文籀文を楷書化した字である[2]。また「𣕓」は誤って「子」の異体字とされているが、別字である。

釋詞

「子」声字は「子供」「小さい」「養育」義を共有する。
  • 字,《説文》十四篇下《子部》「乳也。」(310上),《集韻》平聲《之韻》津之切「養也。」(53)
  • 孜,《廣韻》平聲《之韻》子之切「力篤愛也。」(63)
  • 秄,《説文》七篇上《禾部》「壅禾本。」(145上)《繫傳》「秄之言字也,養之也。」(142上)
「茲」「絲」声字は音義とも近く、また通仮例も多く、同源である。


2017/07/22

字典「甾」

「甾」

釋義

甲骨文

殷墟甲骨文における「甾」とされている字は黄組に数例見えるのみである。
  1. 名:人名用字。
    〼妥余一人□,余其比田正□□盂方〼
    《合補》11242;黄二

    〼,余其比發戔,亡又〼
    《合集》36347;黄二

    〼發戔亡〼
    《合集》36348;黄二

金文

金文における「甾」とされている字は二例のみである。
  1. 名:人名。
    乍(作)父己寶𬯚(尊)彝,南宫。
    甾觶,《銘圖》10646;周中
  2. 名:器の一種。=鼒
    子䧅□之孫〼行(鼒)。
    子䧅□之孫鼎,《銘圖》01744;春秋

秦簡

秦簡における「甾」とされている字は二例のみである。
  1. 名:人名。
    等非故縱弗論殹,它如劾。
    里耶秦簡8-1107

    等當贖耐,是即敬等縱弗論殹。
    里耶秦簡8-1133

釋形

「甾」字の用例は少ない。字形は「其」に似ており、《六書故》卷二十九「𠙹,竹器也。」とある通り竹製の器物の一種の象形と考えられる(季旭昇)。《説文》十二篇下《甾部》「東楚名缶曰𠙹。」(269上)や子䧅□之孫鼎における用法などは引伸義である。
字書類では説文小篆を楷書化した「𠙹」の字体が主に用いられる。また《説文》では「菑」字の古文として「甾」が掲載されており、後代の字書類もこれに従っている。

古くはA・Bがその字形から「甾」かつ「西」であり、両字は同源分化字と考えられていた(李孝定[1]等)。ただし、形が似ていること以外にA・Bを同一視する根拠はない。また于省吾[2]はB・Cを「甾」としたが、陳剣[3]によってCは「由」であると修正された。蘇建洲[4]は「甾」に従う字との字形比較からBを「甾」とした。したがって現在はA=「西」、B=「甾」、C=「由」とするのが通説である。

釋詞

「甾」声字は「黒色」「死」義を共有し、おそらく{災}と同源である。
  • 菑,《詩・大雅・皇矣》「作之屏之,其菑其翳。」 毛傳「木立死曰菑。」,《詩・小雅・采芑》「薄言采芑,于彼新田,于此菑畝。」孔穎達疏「菑者,災也。
  • 淄,《史記・夏本紀》「堣夷既略,濰、淄其道。」張守節正義引《括地志》「俗傳云:禹理水功畢,土石黑,數里之中波若漆,故謂之淄水也。
  • 椔,《爾雅・釋木》「立死,椔。」,《廣韻》平聲《之韻》側持切「木立死。」(62)
  • 䅔,《玉篇》卷十五《禾部》「禾死也。」(290)
  • 緇,《説文》十三篇《糸部》「帛黑色也。」(275上)
  • 輜,《釋名・釋車》「輜車,載輜重、臥息其中之車也。」,《集韻》平聲《之韻》莊持切引《字林》「載衣物車,前後皆蔽,若今庫車。」(51)
  • 鯔,《本草綱目・鱗之三》「時珍曰:鯔,色緇黑,故名。


2017/07/16

字典「來」

「來」

釋義

甲骨文

「来る」の意味に用いられる。その対象は人だけでなく、敵国の攻撃・天候・災害など多岐にわたる。対象によって「~來」と「來~」の形がある。
「來+時間詞」の形で「次にやってくるその時間」を表す用法がある。「来年」「来週」などと同用法である。殷墟甲骨文では「來+干支」の形が多い。
  1. 動:くる。きたる。遠くから近くにやってくる。
    《花東》481;花二
    ①才(在)𫦎(割)自斝。
    《合集》1027正;賓一
    ②己未卜,㱿,貞:缶其見王。一月。
     己未卜,㱿,貞:缶不其見王。
    《合集》2763反;典賓
    ③帚井
    《合集》36509;黄一
    ④隹(惟)王正(征)盂方白(伯)炎。
  2. 動:もたらす。貢納する。
    《合集》9200反;賓一
    ①我卅。
    《合集》152反;賓一
    ②奠十。
    《合集》945正;賓一
    ③貞:古犬。
     古不其犬。
     古馬。
     不其馬。
  3. 形:将来の。日時・時間を表す言葉をあとにおいて「次に来る~」を表す。
    《合集》6478;典賓
    ①貞:乙亥㞢(侑)于祖乙。
    《合集》12466正;典賓
    ②貞:乙酉其雨。
     貞:庚寅其雨。
     貞:庚寅不其雨。
    《村中南》403.2;無一
    ③于辛巳𫹉,受禾。
  4. 名:むぎ。小麦。
    《合集》914;賓一
    ①辛亥卜,貞:[咸]穫
  5. 名:地名。
    《合集》20907;𠂤小
    ①己未卜:今日不雨。才(在)
    《合集》19471;賓三
    ②貞:从至于皿。

金文

西周金文では多くの場合後ろに他の動詞をくっつけて用いられる。直訳すると「来て~する」「~しにくる」或いは「~してくる」となるが、実際は文中においてあまり意味をなさない。
  1. 動:くる。きたる。遠くから近くにやってくる。
    录簋,《銘圖》05115;周中
    ①白(伯)[⿰呇隹](雝)父自㝬。
    動:きて~する。~しにくる。他の動詞をあとに続けて用いる。
    小臣艅尊,《銘圖》11785;商晩
    ②隹(唯)王正(征)人(夷)方。
    厚趠鼎,《銘圖》02352;周早
    ③隹(唯)王各(格)于西周年。
    史牆盤,《銘圖》14541;周中
    ④𣁋(微)史剌(烈)且(祖),廼見武王。
    五年琱生簋,《銘圖》05340;周晩
    ⑤琱生又(有)事,召合事。
  2. 形:将来の。日時・時間を表す言葉をあとにおいて「次に来る~」を表す。
    「來歲」:来年。
    曶鼎,《銘圖》02515;周中
    ①[若]來歲弗賞(償),則付卌秭。
  3. 名:人名用字。
    邾來隹鼎,《銘圖》02885;春早
    ①鼄(邾)隹乍(作)鼎。
  4. 「來歸」:帰ってくる。
    不𡢁簋,《銘圖》05387;周晩
    ①余來歸獻禽(擒)。

楚簡

九店楚簡《簿》では「檐」「⿰禾坐」「⿰禾癸」などともに、「⿱崔田」を数える量詞として用いられている。「⿱崔田」は「㽯(畦)」の異体字と考えられている。
卜筮簡では前辞に「來歲」が用いられている。
なお、楚簡では主に「⿱來止」「逨」の字体が用いられる。上博三《周易》では「⿰木⿱來止」「⿱萊止」も用いられているが、いずれも今本では「來」に作る。
  1. 動:くる。きたる。遠くから近くにやってくる。
    郭店《語叢四》2
    ①往言[⿰昜刂](傷)人,[⿱來止](來)言[⿰昜刂](傷)𠮯(己)。
    包山《集箸言》132反
    ②[⿱衰刖]尹傑[⿰馬𡉣](馹)從郢以此等(志)[⿱來止](來)
    上博三《周易・比》9
    ③不寍(寧)方逨(來),𨒥(後)夫凶。
    清華貳《繋年》第五章25
    ④君[⿱來止](來)伐我〓(我,我)𨟻(將)求𫻲(救)於[⿰㣇阝](蔡),君[⿱女一](焉)敗之。
  2. 名:卦の一つ。「震」の別名。=釐
    清華肆《筮法・四季吉凶・春》37
    [⿱來止](來)巽大吉。
    清華肆《筮法・四季吉凶・夏》37
    [⿱來止](來)巽少(小)吉。
    清華肆《筮法・四季吉凶・冬》38
    [⿱來止](來)巽大凶。
  3. 名:詩の篇題。《詩經・周頌》に収められている。=賚
    郭店《性自命出》25
    ①雚(觀)《[⿱來止](賚)》、《武》,則齊女(如)也斯[⿱乍又](作)。
    郭店《性自命出》28
    《[⿱來止](賚)》、《武》樂取,《卲(韶)》、《[⿹暊止](夏)》樂情。
    上博一《性情論》15
    ③[⿱雚目](觀)《[⿱來止](賚)》、《武》,則[⿱齊心](齊)女(如)也斯[⿱乍又](作)。
  4. 名:地名用字。
    州来国は春秋時代の小国。
    清華貳《繋年》第五章25
    ①五(伍)雞𨒫(將)吴人以回(圍)州[⿱來止](來)
    清華貳《繋年》第十五章82
    ②吴縵(洩)用(庸)以𠂤(師)逆[⿰㣇阝](蔡)卲(昭)侯,居于州[⿱來止](來)
    棘津は黄河の渡しの一つ。
    郭店《窮達以時》4-5
    ③郘(呂)𡔞(望)爲牂(臧)[⿱來止](棘)𣿕(津),戰(守)監門[⿱來止](棘)地。
  5. 量:「⿱崔田」に対して用いられる数量単位。
    九店《簿》1
    ①[⿱崔田]二[⿰禾坐]又五,敔[⿰禾毋]之五檐(擔)。
    九店《簿》3
    ②[⿱崔田]五[⿰禾癸]又五,敔[⿰禾毋]之十檐(擔)一檐(擔)。
    九店《簿》4
    ③……方七,麇一,[⿱崔田]五[⿰禾癸]又六,[⿱崔田]四……
  6. 「來各(格)」:やってくる。
    清華壹《耆夜》8
    ①不(丕)㬎(顯)逨(來)各(格)[⿱金心](歆)氒(厥)𬪭(禋)明(盟)。
    清華叁《説命中》2
    來各(格)女(汝)敚(説),聖(聽)戒朕言,[⿰氵軫](慎)之于乃心。
  7. 「來歸」:帰ってくる。
    九店《日書・告武夷》44
    ①囟(思)某逨(來)䢜(歸)飤(食)故□。
  8. 「來𫻴(歲)」:来年。
    天星觀《卜筮祭禱》9-1
    ①從十月以至[⿱來止](來)𫻴(歲)之十月。
    葛陵《卜筮祭禱》甲三117、120
    ②[⿱夜示](𬒵)之月以至[⿱來止](來)𫻴(歲)之[⿹暊虫](夏)[⿱夜示](𬒵)。
    葛陵《卜筮祭禱》乙一19
    ③自[⿹暊虫](夏)[⿱夜示](𬒵)之月以至[⿱來止](來)𫻴(歲)[⿹暊虫](夏)[⿱夜示](𬒵)。

釋形

麦の象形で、「麥」の初文。しかし麦を意味する用例は少なく、ほとんどが到来の意味に用いられている。
賓組甲骨文では上部の短横画を省略した形を用いる。無名組では中部の画を反転させた形が見られる。黄組には縦画の上部を曲げた形が見られる。戦国楚簡の文字は縦画下部に短横画を加えたものが多い。
戦国時代の燕・晋・楚国では意符として「止」「彳」「辵」を加えた字体が見られる。北魏には「走」を加えた字体も見られる。
後漢以降「來」より「来」の字体が用いられたが、開成石經では「來」の字体が用いられ、そのまま「來」が康熙字典体となっている。

釋詞

{麦}が本義で、{到来}は仮借義とするのが一般的であるが、麦が外来植物であることからの引伸義とする説もある。



2017/07/02

字典「里」

「里」

釋義

金文

西周金文では周王朝の治めるある範囲の土地を指し、管理者は「里君」と呼ばれた。
  1. 名:国有の一定範囲の土地。
    召圜器,《銘圖》19255;周早
    ①休王自㝅事(使)賞畢土方五十
    九年衛鼎,《銘圖》02496;周中
    ①廼(乃)舍(捨)裘衛林𡥨
    大簋蓋,《銘圖》05345;周晩
    ②余既易(錫)大乃
    大簋蓋,《銘圖》05345;周晩
    ③豖㠯(以)𬑪(睽)[⿰舟頁](履)大易(錫)
    また齊国では「○○里」を地名として用いる。
    成陽辛城里戈,《銘圖》16929-16930;春晩
    ④成𪤝(陽)辛城里鈛(戈)。
    平陽高馬里戈,《銘圖》16931;春晩
    ④平𪤝(陽)高馬里鈛(戈)。
  2. 名:人名あるいは地名用字。
    今永里倉鼎,《銘圖》01346;戰晩
    ①今永倉。
  3. 名:うら。衣服の裏地。=裏
    伯振鼎,《銘圖》02480;周中
    ①冟(冪)𧙀里(裏)幽。
  4. 量:長さの単位。一里は三百歩。
    中山王鼎,《銘圖》02517;戰中
    ①方𬣏(數)百里,[⿰柬刂](列)城𬣏(數)十。
  5. 「里君」:里の統治・管理者。
    夨令方彝,《銘圖》13548;周早
    ①眔卿𬀈(事)寮、眔者(諸)尹、眔里君、眔百工、眔者(諸)𥎦(侯)。
    史頌簋,《銘圖》05259-05267;周晩
    ②[⿰氵⿴囗𬑔](姻)友、里君、百生(姓)。
  6. 「里人」:「里君」と同義。
    𬹜簋,《銘圖》05242;周晩
    ①命女(汝)𤔲(司)成周里人眔者(諸)𥎦(侯)、大亞,𡀚(訊)訟罰。

楚簡

包山簡や新蔡葛陵簡では行政区での用法が、郭店簡では「理」としての用法が多く見られる。
  1. 名:行政区域の単位。「○○里」で地名を表す用法もある。
    包山《疋獄》92
    ①𨛡(宛)[⿱蔯土](陳)午之人藍訟登(鄧)[⿱命貝](令)尹之人苛[⿰畀⿱黽甘]。
    上博六《天子建州》甲1
    ②夫〓(大夫)建之㠯(以)
    上博六《天子建州》乙1
    ③夫〓(大夫)建之㠯(以)
  2. 名:ことわり。道理。=理
    郭店《成之聞之》31
    ①天[⿱夂止](降)大[⿱尚示](常),以里(理)人侖(倫)。
  3. 名:姓。里克は晋の将軍。
    清華貳《繫年》第六章32
    ①亓(其)夫〓(大夫)之克乃殺奚𬁼(齊),而立亓(其)弟悼子,之克或(又)殺悼子。
  4. 動:おさめる。理する。整える。ただす。=理
    郭店《性自命出》17
    里(理)亓(其)青(情)而出内(入)之。
    上博一《性情論》10
    里(理)亓(其)情而出内(入)之。
    郭店《語叢一》32
    ③善里(理)而句(後)樂生。
    郭店《語叢一》54
    ④臤(賢)者能里(理)之。
  5. 量:長さの単位。
    上博二《容成氏》7
    ①於是虖(乎)方百之𫲹(中)。
    上博四《柬大王泊旱》13
    ②方若肰(然)
    上博七《凡物流形》甲15
    ③坐而思之,每(謀)於千
  6. 「里公」:里の統治・管理を行う官吏。
    包山《受幾》22
    ①䢵(鄖)司馬之州加公李瑞、里公[⿰隓阝](隋)[⿱目又](得)受[⿱几日](幾)。
    包山《所屬》162
    ②[⿰亙阝](期)思公之州里公[⿸虍㕣](虐)。
    包山《集箸言》122
    里公邞眚(省)、士尹紬[⿱𠦉診](慎)[⿱反止](返)孑。

釋形

「田」と「土」に従う。人の住む場所を表す。その字形は先秦からほとんど変わっていない。

釋詞

「里」声字は「内側」「内にしまう」「隠す」義を共有する。

  • 裏,《説文》八篇上《衣部》「衣内也。」(168上)
  • 貍,《説文》九篇下《豸部》「伏獸。」(196上)
  • 埋、薶,《廣韻》平聲《皆韻》莫皆切「瘞也,藏也。」(95)

また水底に生息する魚を「鯉」と称する。人をより集めたのが「里」である。
「里」の居住の義から「理」のおさめるの義が派生した。

裏の縫い目・里の道・鯉の鱗紋などから「みち」が原義であるとする説もある。


2017/06/28

字典「迺(廼)」

「迺(廼)」

釋義

甲骨文

前後をつなぐ副詞として用いられる。
  1. 副:すなわち。そして。そこで。=乃
    庚辰卜,王:祝父辛羊豕,𫹉父〼
    《合集》19921;𠂤小

    于壬王田,亡𢦔(災)。
    《合集》28609;無一
  2. 名:地名。
    〼步于
    《合集》8270;賓一

    王㞷(往)于
    《合集》33159;歷一

金文

前後を接続する副詞(あるいは接続詞)として用いられる。前後の句同士は因果関係や、単純な時間の前後、仮定と結果など多岐にわたる。
  1. 副:すなわち。そして。そこで。
    接:すなわち。そして。そこで。
    才(在)𦮘(艿),白(伯)懋父罰得、𫷢、古三百寽(鋝)。
    師旂鼎,《銘圖》02462;周中

    正廼𡀚(訊)厲曰:“女(汝)賈田不(否)?”厲許,曰:“余審賈田五田。”
    五祀衛鼎,《銘圖》02497;周中

    用夨[⿰戈業](業)散邑,即散用田。
    散氏盤,《銘圖》14542;周晩

楚簡

接続用法のほか固有名詞としても用いられている。
  1. 副:すなわち。そして。また。さらに。=乃
    又(有)孚不終,乃𤔔(乃)啐(萃)。
    上博一《周易・革》29

    改(巳)日(乃)孚,元羕(享)貞,利貞,𠰔(悔)亡。
    上博一《周易・革》47
  2. 副:すなわち。そして。そこで。続いて。=乃
    [⿱少子]〓(小子)發取周廷杍(梓)梪(樹)于氒(厥)𨳿(間)。
    清華壹《程寤》1

    方(旁)救(求)巽(選)睪(擇)元武聖夫,𦟤(羞)于王所。
    清華壹《皇門》3

    [⿰亻𧧈] (訊)敚(説)曰:“帝殹(繄)爾以畀[⿱余口](余),殹(抑)非?”
    清華叁《説命上》3

    才(在)[⿹暊又](夏)之𣂟(哲)王,嚴[⿰礻寅]畏皇天上帝之命。
    清華伍《厚父》3
  3. 「又廼」:古国名。=有娀
    禼(契)之母,又(有)廼(娀)是(氏)之女也。
    上博二《子羔》10

釋形

甲骨文は「西」あるいは「鹵」と凵形あるいは「口」に従い、多くの字体が見られる。「西」は声符である可能性が高いが、「西」が「鹵」に変化したのか、「鹵」が「西」に変形音化したのかは不明。仮借の用法しかなく、造字本義は定かではない。上部は塩粒で下部は皿(高鴻縉)、上部は容器で下部は敷物(朱方圃)、といった説が代表的ではあるがいずれも根拠に乏しい。
周晩期に「卣」と同化して上部に横画が追加された。下部の凵形の部品は戦国時代には𠃊形となり、後漢代に草書の「辶」と同形化し、楷書で「辶」あるいは「廴」に変化した。
説文古文の「𠨅」は先秦に用例がなく、誤りと思われる。

釋詞

上述のように、接続用法は仮借と思われ、本義は不明である。


字典「乃」

「乃」

釋義

甲骨文

二人称代詞として用いられるが、主語や目的語にはならず、連体修飾(領格・属格)として用いられる。また「迺」と同様に接続詞的な副詞として前後の句をつなぐ用法もある。
  1. 代:なんじの。あなたの。
    戊戌卜,㱿,貞。王曰:𥎦豹逸,余不爾其合,㠯史(使)歸。
    《合集》3297正;典賓

    庚辰卜:于卜土。
    《合集》34189;歷組
  2. 副:すなわち。そして。そこで。=迺
    [辛]亥貞:王令○㠯子方,奠于并。
    《合集》32833;歷二

    翌日庚其𣏮,雩,𠨘至來庚亡大雨。
    《合集》31199;無一

金文

甲骨文同様に連体修飾の二人称代詞として用いられる。西周中晩期には「乃」を主語として用いる例や、指示代詞としての用法が数例見られる。
接続用法では「迺」と同一視されることが多いが、その語法には若干の違いがある。
  1. 代:なんじの。あなたの。祖先を修飾する用法が多い。
    𬲏(載)先王既令(命)𫨶(祖)考事。
    師虎簋,《銘圖》05371;周中

    㠯(以)𠂤(師)右比毛父。
    班簋,《銘圖》05401;周中

    勿灋(廢)朕命,母(毋)㒸(墜)政。
    逆鐘,《銘圖》15193;周晩
  2. 代:なんじ。あなた。
    任縣白(伯)室。
    縣妀簋,《銘圖》05314;周中

    毌政事,母(毋)敢不尹人不中不井(型)。
    牧簋,《銘圖》05403;周中

    可(苛)湛(勘)。女(汝)敢㠯(以)乃師訟。
    𠑇匜,《銘圖》15004;周中
  3. 代:この。その。「申就乃命」の用法が多い。
    今余隹(唯)𤕌(申)𫢁(就)命。
    牧簋,《銘圖》05403;周中

    𩁹𡀚(訊)庶右粦(鄰),母(毋)敢不明不中不井(型)。
    牧簋,《銘圖》05403;周中

    人,乃弗得,女(汝)匡罰大。
    曶鼎,《銘圖》02515;周中
  4. 副:すなわち。そして。そこで。
    接:すなわち。そして。そこで。
    履付裘衛林𡥨里,則成夆(封)亖(四)夆(封)。
    九年衛鼎,《銘圖》02496;周中

    噩(鄂)𥎦(侯)馭方內(納)壺于王,祼之。
    鄂侯馭方鼎,《銘圖》02464;周晩

    用昭乃穆穆不(丕)顯龍(寵)光,用𣄨(祈)匃多福。
    遟父鐘,《銘圖》15297;周晩
  5. 副:すなわち。そうしてはじめて。そこでやっと。
    [必]會王符,敢行之。
    新郪虎符,《銘圖》19176;戰晩
  6. 接:もし。仮に~ならば。
    令眔(暨)奮,克至,余𠀠(其)舍(捨)女(汝)臣十家。
    令鼎,《銘圖》02451;周早

    求乃人,弗得,女(汝)匡罰大。
    曶鼎,《銘圖》02515;周中
  7. 人名用字。
    𪺡子乍(作)氒(厥)文考寶𬯚(尊)彝。
    乃𪺡子鼎,《銘圖》02044;周早

    𫨸(矧)辛白(伯)蔑子克𤯍(懋)。
    乃子克鼎,《銘圖》02322;周早

楚簡


  1. 代:なんじの。あなたの。
    《康[⿱言廾](誥)》員(云):“敬明罰。”
    郭店《緇衣》29

    《康[⿱言廾](誥)》員(云):“敬明罰。”
    上博一《緇衣》15

    愻(遜)惜(措)心,𦘔(盡)𡧛(付)畀余一人。
    清華壹《祭公之顧命》8
  2. 代:なんじ。あなた。
    休才(哉),𨟻(將)多昏(問)因由,乃不[⿺辶⿱止㚔](失)厇(度)。
    上博三《彭祖》1
  3. 副:すなわち。まさに。~である。
    攸(修)之身,丌(其)惪(德)貞。
    郭店《老子乙》16

    攸(修)之向(鄉),其惪(德)長。攸(修)之邦,其惪(德)奉(豐)。
    郭店《老子乙》17
  4. 副:すなわち。そして。そこで。
    咎(皋)𡍒(陶)既已受命,𠓥(辨)侌(陰)昜(陽)之[⿱既火](氣)。
    上博二《容成氏》29

    參(三)[⿰土丯](郤)既亡,公家溺(弱),鑾(欒)箸(書)弋(弒)[⿰⿻木𦥑攵](厲)公。
    上博五《姑成家父》10

    立丗〓(三十)又九年,戎大敗周𠂤(師)于千[⿱母田](畝)。
    清華貳《繋年》第一章4

    欲亓(其)子奚𬁼(齊)之爲君也,[⿰言⿱虫虫](讒)大(太)子龍(共)君而殺之。
    清華貳《繋年》第六章31
  5. 副:すなわち。すでに。過去や完了を表す。
    [⿱允𪢾](舜)老,視不明,聖(聽)不[⿰耳兇](聰)。
    上博二《容成氏》17

釋形

極めて単純な形で、字義も仮借と考えられるため、解釈は難しい。形は「弓」にも似ている。
「繩」の初文で縄の象形(朱芳圃、何琳儀)、「奶」の初文で女性の乳の象形(郭沬若、徐中舒)の二説が代表的であるが、いずれも根拠に乏しい。ここでは、物を引く形で「扔」の初文ではないか、という可能性も提示しておく。
説文籀文の「𠄕」は先秦に用例がなく、誤りと考えられる。

釋詞

「乃」のほか二人称代詞に用いられる「女(汝)」「爾」「而」などはいずれも近音で同源詞と思われる。


2017/06/15

字典「㠯(以)」

「㠯」

釋義

甲骨文

殷代における「㠯(以)」字の用法は広いが、おおむね現在と同様の意味である。
  1. 動:もちいる。 ひきいる。
    前:もって。~によって。~をひきいて。
    《合集》31977;歷二
    ①辛亥,貞: [⿱匕鬯]㠯(以)衆灷,受又(佑)。
    《合集》35356;黄二
    ②乙丑卜,貞:王其又升于文武帝祼,其㠯(以)羌,其五人正,王受又〓(有佑)。
  2. 動:もたらす。もってくる。献上する。
    《合集》33191;歷二
    ①癸亥,貞:厃方㠯(以)牛,其登于來甲申。
    《合集》93正;賓一
    ②己丑卜,㱿,貞:即芻,其五百隹,六。
  3. 動:祭祀名。 
  4. 《合集》32848;歷二
    ①辛巳,貞:㠯(以)伊示。
    《合集》32543;歷二
    ②庚寅,貞:王米于囧㠯(以)祖乙。
  5. 接:および。並びに。
    《合集》21562;子組
    ①庚辰,令彖隹來豕㠯(以)龜二,若令。
    《合集》33278;歷二
    ②辛酉,貞:王令○㠯(以)子方奠于并。

金文

金文における「㠯(以)」字の用法はとても広く、分類の難しい用例もある。
  1. 動:ひきいる。引き連れる。
    小子[⿱夆囧]卣,《銘圖》13326;商晩
    ①子令小子[⿱夆囧]㠯(以)人于堇。
    小臣𬣆簋,《銘圖》05269-05270;周早
    ②白(伯)懋父㠯(以)殷八𠂤(師)征東尸(夷)。
    師訇簋,《銘圖》05402;周晩
    ③率㠯(以)乃友干(捍)䓊(禦)王身。
  2. 前:もって。~で。~によって。
    鼓䍙簋,《銘圖》04988;周早
    ①王令東宮追㠯(以)六𠂤(師)之年。
    衛姒鬲,《銘圖》02802;周晩
    ②衛㚶(姒)乍(作)鬲,㠯(以)從永征。
    曾伯漆簠,《銘圖》05980;春早
    ③余用自乍(作)[⿺辶旅](旅)𠤳(簠), 㠯(以)㠯(以)行,用盛稻粱。
  3. 前:もって。~によって。~にもとづいて。「是以」
    虢季子白盤,《銘圖》14538;周晩
    ①折首五百,執訊五十,是㠯(以)先行。
    中山王鼎,《銘圖》02517;戰中
    ②氏(是)㠯(以)賜之氒(厥)命。
  4. 前:もって。~をひきいて。ともに。=與
    麥尊,《銘圖》11820;周早
    ①王㠯(以)𥎦(侯)内(入)于𡨦(寢)。
    虢仲盨蓋,《銘圖》05623;周晩
    ②虢中(仲)㠯(以)王南征,伐南淮尸(夷)。
    食仲走父盨,《銘圖》05616;周晩
    ③走父㠯(以)其子〓孫〓寶用。
  5. 前:もって。~を。~に対して。
    師旂鼎,《銘圖》02462;周中
    ①吏(使)氒(厥)友引㠯(以)告于白(伯)懋父。
    曶鼎,《銘圖》02515;周中
    㠯(以)匡季告東宮。
    𠑇匜,《銘圖》15004;周中
    ③乃師或㠯(以)女(汝)告。
  6. 接:もって。そして。それで。
    善夫山鼎,《銘圖》02490;周晩
    ①受册,佩㠯(以)出。
    晋侯蘇鐘,《銘圖》15307-15308;周晩
    ②𩵦(蘇)𢱭(拜)𩒨(稽)首,受駒㠯(以)出。
    中山王鼎,《銘圖》02517;戰中
    ③含(今)𫊣(吾)老賈,親率曑(三)軍之眾,㠯(以)征不宜(義)之邦。
  7. 接:および。並びに。=與
    夨令尊,《銘圖》11821;周早
    ①爽𬢚(左)右于乃寮㠯(以)乃友事。
    大克鼎,《銘圖》02513;周中
    ②田于[⿰⿱田山夋](峻),㠯(以)氒(厥)臣妾。
    大簋蓋,《銘圖》05345;周晩
    ③余弗敢𫿣(吝), 豖㠯(以)𬑪(睽)[⿰舟頁](履)大易(錫)里。
  8. 助:場所や時間の範囲を示す。のみ。
    散氏盤,《銘圖》14542;周晩
    ①眉(堳)自𬉄(瀗)涉㠯(以)南,至于大沽(湖)。
    新郪虎符,《銘圖》19176;戰晩
    ②用兵五十人㠯(以)上,[必]會王符。

楚簡

用例が多く、用法も広い。代表的なものを示す。
  1. 前:もって。~で。~によって。
    包山《集箸言》144
    ①小人信㠯(以)刀自㦹(傷)。
    郭店《老子甲》3
    ②其才(在)民上也,㠯(以)言下之。
    清華貳《繋年》第十一章59
    㠯(以)女子與兵車百𨌤(乘)。
  2. 前:もって。~によって。から。
    包山《疋獄》99
    㠯(以)亓(其)反(叛)官,自䜴(屬)於新大[⿸厂⿰飠攵](廐)之古(故)。
    上博七《鄭子家喪》甲本6
    㠯(以)子家之古(故)。
    清華貳《繋年》第十八章103
    ③至今齊人㠯(以)不服于晉。
  3. 前:もって。~のときに。時間を表す。
    包山《疋獄》90
    㠯(以)甘𠤳(固)之𫻴(歲)。
    包山《集箸言》132
    㠯(以)宋客盛公[⿰畀臱](邊)之𫻴(歲)[⿰⿱井田刃](荆)𫵖(夷)之月癸巳之日。
    包山《集箸言》145反
    㠯(以)八月甲戌之日。
  4. 前:もって。~をひきいて。ともに。=與
    包山《集箸》2
    ①魯昜(陽)公㠯(以)楚帀(師)𨒥(後)𩫨(城)奠(鄭)之𫻴(歲)。
    上博四《昭王毀室》5
    ②卒㠯(以)夫〓(大夫)㱃〓(飲酒)於坪澫。
    清華貳《繋年》第十九章106
    ③吴縵(洩)用(庸)㠯(以)帀(師)逆[⿰㣇阝](蔡)卲(昭)侯。
  5. 前:もって。~を。~に対して。
    包山《集箸》159
    ①罼(畢)紳命㠯(以)[⿰𪰊頁](夏)[⿺辶各](路)史、[⿺辶舟]史爲告於少帀(師)。
    上博二《容成氏》10
    ②堯㠯(以)天下襄(讓)於臤(賢)者。
    清華貳《繋年》第六章35
    ③秦穆公㠯(以)亓(其)子妻之。
  6. 接:もって。そして。それで。
    包山《受幾》22
    ①不諓(察)[⿱陳土](陳)宔(主)[⿰角隼](顀)之[⿰昜刂](傷)之古(故)㠯(以)告。
    上博六《莊王既成》1
    㠯(以)昏酖(沈)尹子桱。
    清華貳《繋年》第十六章90
    ③厲公亦見𧜓(禍)㠯(以)死,亡𨒥(後)。
  7. 接:もって。~ので。~のために。
    包山《疋獄》93
    ①𨛡(宛)人𨊠(範)紳訟𨊠(範)駁,㠯(以)亓(其)敓亓(其)𨒥(後)。
    清華壹《金縢》12
    ②今皇天[⿺辶童](動)畏(威),㠯(以)章公惪(德)。
    清華貳《繋年》第十三章63
    ③楚人被[⿱加車](駕)㠯(以)追之。
  8. 助:場所や時間の範囲を示す。のみ。
    上博二《容成氏》27
    ①㙑(禹)乃從灘(漢)㠯(以)南爲名浴(谷)五百。
    上博六《競公瘧》10
    ②自古(姑)、𧈡(尤)㠯(以)西,翏(聊)、𡥨(攝)㠯(以)東

釋形

人が物を持っている形。「携える」「持ってくる」の意味を表している。
殷村南派や周代には右部を省略した略体が用いられ、これが楷書の「㠯」の起源となっている。戦国時代秦国では略体に再び「人」を加えた字体が作られ、これが楷書の「以」の起源となっている。

古くは甲骨文の繁体について「氏(致)」「氐」字と釈す説が主流であった。また「㠯」の起源となった字体は「耜」の初文で農具の象形と考えられていた(徐中舒)。しかし、《合集》277と《合集》32023の対比などにより、「氏」「氐」と考えられていた字体と「㠯」とが繁簡関係にある同一字種であると指摘され、上記の旧説が否定された(島邦男、王貴民、林澐、裘錫圭等)。

釋詞

「㠯」声字は「台」声字や「矣」声字などを含み非常に数が多い。「能」声字を同源とする説もある。


2017/06/03

字典「𦣞(𦣝)」

「𦣞」

釋義

金文

用例は少なく、固有名詞にしか用いられていない。
  1. 名:人名。族名。
    𦣞
    𦣞觚,《銘圖》09037;商晩

    鑄子弔(叔)黑𦣞肈乍(作)寶盨。
    鑄子叔黑𦣞盨,《銘圖》05607-05608;春早
  2. 名:姓。=姬
    魯白(伯)愈父乍(作)鼄(邾)𦣞(姬)仁𦨶(媵)𬐿(沬)盤。
    魯伯愈父盤,《銘圖》14448;周晩

    黄子乍(作)黄甫(夫)人孟𦣞(姬)器則。
    黄子鬲,《銘圖》02844;春早

楚簡

用例は「頤」が《周易》に用いられているのみ。
  1. 名:卦の一つ。
    :貞吉。觀,自求口實。
    上博三《周易・頤》24

秦簡

用例は「頤」が《日書・黄鐘》に用いられているのみ。
  1. 名:あご。おとがい。下あご。
    兑(鋭)顔,兑(鋭),赤黑,免(俛)僂,善病心、腸。
    放馬灘《日書》乙種《黄鐘》206

釋形

郭沫若は「頤」の初文で顎の象形、于省吾は「䇫」の初文で梳き櫛の象形、白川静は乳房の象形としている中で、于省吾の説がほぼ定説となっている(近年、蔣玉斌《甲骨文待登録字“𦣞”“巸”釋説》が発表されたが未見、下顎と歯の象形としているようである)。
殷墟甲骨文に「𦣞」の用例はないが、これを偏旁として含む「姬」字が見られる。後代の出土文字資料も同様に「𦣞」の用例は少ない一方で「姬」は多く見られる。
《説文》では「頤」が「𦣞」の異体字とされているため、習慣的に「𦣞」「頤」を同一字種として扱うことがある。「頤」は隷書楷書ではさまざまな字形が見られる。「顊」は《康煕字典》では「頤」とは別字種として扱われている。

釋詞

「巸」声字と「喜」声字は音義とも近く、同源と考えられる。

  • 《説文》五篇上《喜部》「喜,樂也。」(96下)
  • 《方言》卷十「紛怡,喜也。湘潭之間曰紛怡,或曰巸巳。
  • 《尚書・堯典》「庶績咸熙。」、《文選・劇秦美新》「庶績咸喜。
  • 《説文》十二篇下《女部》「媐,說樂也。」(262下)
  • 《玉篇》卷二十一《火部》「熹,熱也,烝也,炙也,熾也。亦作“熈、暿”。」(390)

2017/06/01

字典「負」

「負」

釋義

金文

金文の「負」字は戦国晩期の兵器に一例あるのみである。
  1. 「負陽」:地名。
    十二年,負陽命(令)□雩,工帀(師)樂休,冶□。
    負陽令戈,《銘圖》17199;戰晩
また負黍令韓譙戈(《銘圖》17178-17180)は地名「負黍」を「[⿱付臣]余」とする。

楚簡

楚簡に「負」字は用いられていない。
上博三《周易・睽》33「見豕[⿱伓貝](負)𡌆(塗)」、同《周易・解》37「[⿱伓貝](負)𠭯(且)𨍱(乘)。」、今本《周易》が「負」とするところを上博簡は「⿱伓貝」に作る。

秦簡

法律文書では「負う」「償う」の用例が多く見られる。
  1. 動:おう。背負う。背中に物を載せる。
    吏自佐、史以上從馬、守書私卒,令市取錢焉,皆䙴(遷)。
    睡虎地《秦律雜抄》11

    一人米十斗,一人粟十斗,食十斗。
    嶽麓貳《數・衰分類算題》137
  2. 動:おう。責任、債務をもつ。
    作務及賈而責(債)者,不得代。
    睡虎地《秦律十八種・司空》136

    夫妻相反者,妻若夫必有死者。
    嶽麓壹《占夢書》9貳
  3. 動:つぐなう。賠償する。
    其不備,出者之;其贏者,入之。
    睡虎地《秦律十八種・倉律》23

    羣它物當賞(償)而僞出之以彼賞(償)。
    睡虎地《秦律十八種・效》174
  4. 名:つま。=婦
    驚多問新負(婦)、妴得毋恙也?
    睡虎地11號木牘反Ⅵ

    驚多問新負(婦)、妴皆得毋恙也?
    睡虎地6號木牘正Ⅴ
  5. 名:えびら。矢筒。=箙
    卒百人,戟十、弩五、三,問得各幾可(何)?
    嶽麓貳《數・衰分類算題》132

    述(術)曰:同戟、弩、數,以爲法。
    嶽麓貳《數・衰分類算題》133

釋形

「人」と「貝」に従う。戦国晩期以前には見られない。「府」の戦国時代に見られる異体字には「𢊾」「⿱付貝」「⿸广負」等があり、「負」は「⿱付貝(府)」から分化した字と思われる(黄德寬)。
南北朝~唐代には説文小篆を楷書化したものとして上部を「刀」とした字体が用いられたが、《五經文字》には「負」が採用された。

釋詞

「負」「背」「倍」は音義とも近く通仮例があり、同源である。
  • 《釋名・釋姿容》「負,背也,置項背也。
  • 《史記・酈生陸賈列傳》「項王負約不與。」,《漢書・酈陸朱劉叔孫傳》「項王背約不與。
  • 《釋名・釋形體》「背,倍也,在後稱也。
  • 馬王堆《老子》甲本《道篇》126「民利百負。」、同乙本233下「民利百倍。
否定の意志→「そむく」→「負う」という語義展開が考えられる。

2017/05/28

字典「某」

「某」

釋義

金文

用例が少ないが、全て「謀」の意味に用いられる。
諫簋について「無」あるいは「靡」と読み否定の意味とする説もある(郭沫若、楊樹達、裘錫圭)。
  1. 動:はかる。くわだてる。計画する。=謀
    王伐𬃚(蓋)𥎦(侯),周公某(謀),禽𬒯(祝)。
    禽簋,《銘圖》04984;周早

    女(汝)某(謀)不又(有)聞(昏),母(毋)敢不譱(善)。
    諫簋,《銘圖》05336;周中

楚簡

楚簡では人名の用例が多い。また遣策簡には「梅」の用法が見える。
  1. 代:なにがし。それがし。ある人。
    含(今)日𨟻(將)欲飤(食),敢㠯(以)亓(其)妻□妻女(汝)。
    九店《告武夷》43

    句茲也發陽(揚)。
    清華壹《祝辭》1

    代:なにがし。それがし。ある事。
    初日政勿若,今政砫(重),弗果。
    清華柒《越公其事》39
  2. 名:うめ。=梅
    一垪(瓶)某(梅)𨟻(醬)。
    信陽《遣策》21

    [⿳宀⿰必必甘](蜜)某(梅)一[⿰缶土](缶)。
    包山《遣策》255
  3. 名:姓。=梅
    某[⿳艸二艸]之黄爲右[⿰馬𤰇](服)。
    曾侯乙《乘馬》143

    某(梅)瘽才(在)漾陵之厽(三)鉩(璽),[⿵門⿰夕刀](間)御之典匱。
    包山《集箸》13

    訓。
    包山《所屬》193
  4. 名:地名。
    某丘一冢。
    葛陵甲三367

    [⿰既刂](刏)於𬏄丘、某丘二〼。
    葛陵甲三403

釋形

「甘/口」と「木」に従う。《説文》六篇上《木部》「某,酸果也。」段注「此是今梅子正字。」とあり、「楳(梅)」の初文。
先秦文字では「甘」旁と「口」旁はしばしば区別されない。先秦文字の字形は「呆/杲/𣏼/某」形の4種に分けられるが、漢代以降は「某」形が残った(ただし説文小篆は「杲」形)。漢~南北朝代は縦画が上部まで伸びた形が常用されたが、唐代には「其」の下部を「小」に換えたような字体が一般的となった。《康煕字典》は説文小篆を模倣した字体を掲出する。
「牟」の略体「厶」を借りる用法が特に仏教系の写本には多く見られる。

釋詞

「某」と「母」は同音である(《廣韻》莫厚切)。また「某」声と「母/毎」声は互いに通用し、両字は同源と考えられる。

  • 《集韻》平聲《灰韻》謀杯切「梅,或作“楳、某、槑”。」(231)
  • 《説文》三篇下《言部》「謀,慮難曰謀。𠰔,古文謀。𧦥,亦古文。」(46下)
  • 《禮記・中庸》「人道敏政,地道敏樹。」鄭玄注「敏或爲謀。

張建銘は以下の諸字を同源とし「始まり、兆し」の意味があるとする。
  • 腜,《説文》四篇下《肉部》「婦孕始兆也。」(81下)
  • 媒,《説文》十二篇下《女部》「謀也。謀合二姓者也。」(259下)
  • 謀,《説文》三篇下《言部》「慮難曰謀。」(46下)

2017/05/26

字典「不」

「不」

釋義

甲骨文

「亡」「勿」「弗」などとともに否定詞として用いられる。特に「弗」と用法が近く、占卜者の意志によらないもの(天候、災害など)に対して用いられ、「~できない」「~ではない」のように可能性を否定する。
  1. 副:ず、あらず。否定詞。
    ①甲戌卜:今日雨,雨。
    《屯南》82

    ②丙子卜,韋,貞:我其受年。
    《合集》5611正
  2. 名:人名。賓組卜辞に現れる。
    ①貞:子其㞢(有)疾。
    《合集》14007

    ②□寅卜,韋,貞:御子
    《合補》1966
  3. 名:方国名。=邳?
    ①庚申卜,王貞:余伐
    《合集》6834正

    ②……三人于中,宜𫳅。
    《合集》1064
  4. 「不用」:用辞の一つ。命辞で提出された予定を実行しないことを表す。
    ①辛酉貞:癸亥又(侑)父丁歲五牢。不用
    《合集》32665
  5. 「不若」:よくない。よくないこと。災い。
    ①甲申卜,争,貞:王㞢(有)不若
    《合集》891正

    ②……我勿巳賓,乍帝降不若
    《合集》6497
  6. 「不[⿱幺才]鼄」:吉凶判断語の一つ。意味はわかっていない。

金文

甲骨文同様、否定詞としての用法が多く見られる。決まり文句の多い金文では「不○」といった成語化した詞も多い。
  1. 副:ず、あらず。否定詞。
    ①十枻(世)[⿰𦣠言](忘)。
    獻簋,《銘圖》05221

    ②師㝨虔㒸(墜)。
    師㝨簋,《銘圖》05366-05367

    ③叀(唯)王龏(恭)德谷(裕)天,順(訓)我每(敏)。
    何尊,《銘圖》11819

    井(型)中……毋敢井(型)。
    牧簋,《銘圖》05403
  2. 助:…か、いなや。疑問語気詞。文末に置かれる。=否
    ①女(汝)𧵒(賈)田不(否)
    五祀衛鼎,《銘圖》02497
  3. 形:大きい,「不顯」「不𫠭」。=丕
    不(丕)巩(鞏)先王配命。
    毛公鼎,《銘圖》02518

    不(丕)顯考文王。
    天亡簋,《銘圖》05303

    ③對揚天子不(丕)𫠭(丕)魯休。
    師𡘇父鼎,《銘圖》02476
  4. 名:人名,「子不」。人名用字,「不壽」「不𡢁」。
  5. 名:国名。=邳
    ①不(邳)白(伯)夏子自乍(作)𬯚(尊)罍。
    邳伯夏子缶,《銘圖》14089-14090
  6. 「不廷」「不廷方」:朝廷に出ない国。=不庭
    ①𨨋(鎮)静(靖)不廷
    秦公簋,《銘圖》05370

    ②率褱(懷)不廷方
    毛公鼎,《銘圖》02518

楚簡

否定詞と「大いに」の用法がほとんどである。
上博四《曹沫之陣》64「𫊟(吾)言氏不。」の解釈は一定しない。上博三《周易・蹇》35「九五:大訐(蹇)不(朋)棶(來)。」、今本は「大蹇朋來」に作り、解釈は一定しない。
  1. 副:ず、あらず。否定詞。
    憖。
    包山《集箸言》15反

    ②民從上之命。
    郭店《成之聞之》2

    ③曷今東恙(祥)不章(彰)?
    清華壹《尹至》3
  2. 形:大きい。大いに。=丕
    ①《君奭》曰:“唯髟(冒)不(丕)單爯(稱)惪(德)。”
    郭店《成之聞之》22

    ②《
    上博一《孔子詩論》6
    剌(烈)文》曰:“乍{亡}競隹(維)人,不(丕)㬎(顯)隹(維)惪(德)。”
    ③遠土不(丕)承。
    清華壹《皇門》6

釋形

《詩經・小雅・常棣》「常棣之華,鄂不韡韡。」鄭玄箋「承華者曰鄂,不當作柎。柎,鄂足也。古聲不、柎同也。」より、「柎」の初文で、花萼の象形とする説が定説となっている(羅振玉、王国維、郭沫若、徐中舒)。
また、「茇」の初文で、根の象形とする説がある(趙誠、于省吾、姚孝遂、陳世輝、何琳儀)。

釋詞

王力は否定詞「不」「否」「弗」を同源詞とする。

張建銘、殷寄明などは以下の諸字を同源とする。「不」には否定詞を除くと「大きい」の義があり、今「丕」声字が多くこれをうけつぐ。
  • 丕,《説文》一篇上《一部》「大也。」(1上)
  • 伾,《説文》八篇上《人部》「有力也。」(160下)
  • 魾,《説文》十一篇下《魚部》「大鱯也。」(243下)
「咅」声字には「増加する」義と「破れる」義が見られる。
  • 倍,《集韻》去聲《隊韻》補妹切「加也。」(531)
  • 培,《廣韻》平聲《灰韻》薄回切「益也。」(98)
  • 陪,《玉篇》卷二十二《阜部》「加也,益也。」(418)
  • 剖,《廣韻》上聲《厚韻》普后切「判也,破也。」(327)
  • 掊,《莊子・逍遙游》陸德明釋文「掊,司馬云:“擊破也。”」
「不」声字には「始まる」「盛りになる」「栄える」義が見られる。
  • 坏,《説文》十三篇下《土部》「丘再成者也。」(290下)
  • 肧,《説文》四篇下《肉部》「婦孕一月也。」(81下)
  • 芣,《説文》一篇下《艸部》「華盛。」(16上)
以上より「大きい」「栄える」等を原義とする(PIE *bhel-に近い)。「芣」は字形との関係も伺える。否定の用法は仮借と考えられる。