2017/09/17

字典「史」

「史」

釋義

甲骨文

「史」は武官、あるいは使者とする説が広く受容されているが、異説は少なくない。
また、名詞{事}、動詞{使}に用いられる。
  1. 名:職官名。また、使者。
    貞:方其[⿶戈屮](翦)我
     貞:方弗[⿶戈屮](翦)我
     貞:我其[⿶戈屮](翦)方。
     貞:我弗其[⿶戈屮](翦)[方]。
    《合集》9472正;賓一

    己未卜,古,貞:我三史(使)人。
     貞:我三不其史(使)人。
    《合集》822;賓一
  2. 名:できごと。事象。事情。=事
    癸亥卜,爭,貞:灷𬅶化亡𡆥(憂),由(堪)王史(事)。
     貞:灷𬅶化亡𡆥(憂),由(堪)王史(事)。
     灷𬅶化其㞢(有)𡆥(憂)。
     貞:灷𬅶化亡𡆥(憂),由(堪)王史(事)。十月。
     灷𬅶化其㞢(有)𡆥(憂)。
    《合集》5439正;賓一

    辛卯卜,貞:今四月我又(有)史(事)。
    《合集》21666;子組
  3. 名:人名。
    丙寅卜,,貞:今夕亡𡆥(憂)。
    《合集》16584;賓三

    壬辰卜,内,貞:今五月㞢(有)至。
     今五月亡其至。
    《合集》13579反;賓一
  4. 動:つかわす。派遣する。出向かせる。=使
    己未卜,古,貞:我三史史(使)人。
     貞:我三史不其史(使)人。
    《合集》822;賓一

    庚申卜,古,貞:王史(使)人于䧅,若。王占曰:吉,若。
    《合集》376正;賓一

金文

「内史」は内史寮の長官で、主に王に伴う職務を行った。「太史」は太史寮の長官で、儀礼に参加したり、立法・気象観測・卜筮等を行ったとされる。金文では内史・太史等の官僚をまとめて「史」と称し、名前の前につけて「史某」の形で用いられる。
  1. 名:職官名。
    乙亥,王𫌲(誥)畢公,廼易(賜)𬛥貝十朋。
    史𬛥簋,《銘圖》04986-04987;周早

    孝𬁡(友)𤖣(牆),𡖊(夙)夜不彖(惰),其日蔑[⿸𠩵口](懋)。
    史牆盤,《銘圖》14541;周中

    易(賜)女(汝)、小臣、霝龠(籥)鼓鐘。
    大克鼎,《銘圖》02513;周晩
  2. 名:できごと。事象。事情。=事
    自今余敢夒(擾)乃小大史(事)
    𠑇匜,《銘圖》15004;周中
  3. 名:人名。また、族名。
    史鼎,《銘圖》00017-00045;商晩

    𦛛(薛)𥎦(侯)戚乍(作)父乙鼎彝,
    薛侯戚鼎,《銘圖》01865;商晩
  4. 動:つかえる。=事
    𩛥(載)乃且(祖)考史(事)先王,𤔲(司)虎臣。
    虎簋蓋,《銘圖》05399-05400;周中
  5. 動:つかわす。派遣する。出向かせる。=使
    余令(命)女(汝)史(使)小大邦。
    中甗,《銘圖》03364;周早

    隹(唯)王𠦪于宗周,王姜史(使)叔事(使)于大(太)𠍙(保)。
    叔簋,《銘圖》05113-05114;周早

    用𬯚(尊)史(使)于天宗,用卿(饗)王逆[⿺辶舟](復),用匓寮(僚)人。
    作册夨令簋,《銘圖》05352-05353;周早
  6. 動:しむ。ある対象に何かをさせる。=使
    𨕘從師雍父𫵔史(使)𨕘事(使)于㝬(胡)𥎦(侯)。
    𨕘甗,《銘圖》03359;周中
  7. 「内史」「内史尹」:職官名。内史寮の長官。
    隹(唯)三月,王令𬊇(榮)眔内史曰:“[⿱𦵯廾](介)井(邢)𥎦(侯)服。”
    榮簋,《銘圖》05274;周早

    王各(格)于大(太)室,師毛父即立(位),丼(邢)白(伯)右,内史册命。
    師毛父簋,《銘圖》05212;周中

    [⿰𠂤⿳日夂土]白(伯)右師兑,入門,立中廷,王乎(呼)内史尹册令(命)師兑。
    三年師兑簋,《銘圖》05374-05375;周晩
  8. 「大(太)史」:職官名。太史寮の長官。
    大(太)史乍(作)姬𬍢寶𬯚(尊)彝。
    公太史鼎,《銘圖》01824-01826;周早

    隹(唯)十又三月庚寅,王才(在)寒[⿰𠂤朿](次),王令大(太)史兄(貺)䙐土。
    中鼎,《銘圖》02382;周早

    隹(唯)公大(太)史見服于宗周年。
    作册䰧卣,《銘圖》13344;周早

楚簡

書籍簡においてはほとんど{使}に用いられる。司法文書である包山簡には102「正史」、138「大史」、158「右史」等の職官名が見られる。
  1. 名:史官。太史。
    是𫊟(吾)亡(無)良祝、也。𫊟(吾)𢼽(欲)䜴(誅)者(諸)祝、
    上博六《景公瘧》2

    乃册祝告先王曰。
    清華壹《金縢》2
  2. 名:姓。
    九月辛亥之日,彭君司敗善受[⿱几日](幾)。
    包山《受幾》54

    辛亥,妾婦監、[⿱𬐇心](懌)、䣓人秦赤。
    包山《所属》168

    辛巳,[⿺辶卜]𫾽(令)[⿸疒𢍏](𤷄)、𦸗尹毛之人、郯[⿰⿺𠃊炎戈](列)尹[⿱⿰炅匕黽]之人。
    包山《所属》194
  3. 動:つかえる。=事
    胃(謂)之【臣】,㠯(以)[⿱宀忠](忠)史(事)人多。
    郭店《六德》17

    奠(鄭)壽告又(有)疾,不史(事)
    上博六《平王問鄭壽》4
  4. 動:つかう。用いる。使用・運用する。=使
    胃(謂)之君,㠯(以)宜(義)史(使)人多。
    郭店《六德》15

    先﹦(先人)[⿱之所]﹦(之所)史(使)
    上博五《季康子問於孔子》12

    はたらかせる。使役する。=使
    至亞(惡)何(苛),而上不旹(時)史(使)
    上博五《鮑叔牙與隰朋之諫》7
  5. 動:つかわす。派遣する。出向かせる。=使
    孤史(使)一介史(使)
    上博七《吴命》4
  6. 動:しむ。ある対象に何かをさせる。=使
    民可史(使)道之,而不可史(使)智(知)之。
    郭店《尊德義》21-22

    亓(其)甬(用)心各異,[⿱爻言](教)史(使)肰(然)也。
    郭店《性自命出》9

     亓(其)甬(用)心各異,[⿱爻子](教)史(使)肰(然)也。
    上博一《性情論》4

    季𬨤(桓)子史(使)中(仲)弓爲[⿸宰刃](宰)。
    上博三《仲弓》1

釋形

「中*」と「又」に従い、何かを持った形。「中*」の構意は諸説あり定説はない。「中*」を「中」とみなす説があるが、両字は形が異なっており、また卜辞中の「中*」字の用法は「史」と同じで「中」のそれとは異なる。「中*」と「史」が同用法であることから、「史」は「中*」に「又」を加えた形声文字である可能性もある。
甲骨文には四種の字体がある。Aは賓組以外で普遍的に用いられる字体で、後代にもこの字体が継承された。Bは賓組に用いられる字体で、上部が二叉の字。二叉が三叉に変化し、後代の「事」「吏」字になった。Cは刀卜辞に見られる横画を欠いた字体。Dは主に𠂤賓間に用いられる「又」を省略した字体だが、上述のように「史」の初形かもしれない。
西周中晩期の金文の字は中央の縦画の長さに多様性がある。𪠷𫲾簋(《銘圖》04962)の「𪠷」は羨符「口」を加えた異体字と思われるが、別字の可能性もある。
晋系文字は上部の縦画が「十」字のようになっている。楚系文字は「⿳卜甘又」の字体だが、「弁」と極めて近い字形のものもある。

釋詞

上述のように「史」「事」「吏」は一字分化であり、また字義・用例を見ても明らかなように、{史}{使}{事}{吏}は同源詞である。