「不」
釋義
甲骨文
「亡」「勿」「弗」などとともに否定詞として用いられる。特に「弗」と用法が近く、占卜者の意志によらないもの(天候、災害など)に対して用いられ、「~できない」「~ではない」のように可能性を否定する。
- 副:ず、あらず。否定詞。
①甲戌卜:今日雨,不雨。《屯南》82
②丙子卜,韋,貞:我不其受年。《合集》5611正 - 名:人名。賓組卜辞に現れる。
①貞:子不其㞢(有)疾。《合集》14007
②□寅卜,韋,貞:御子不。《合補》1966 - 名:方国名。=邳?
①庚申卜,王貞:余伐不。《合集》6834正
②……不三人于中,宜𫳅。《合集》1064 - 「不用」:用辞の一つ。命辞で提出された予定を実行しないことを表す。
①辛酉貞:癸亥又(侑)父丁歲五牢。不用。《合集》32665 - 「不若」:よくない。よくないこと。災い。
①甲申卜,争,貞:王㞢(有)不若。《合集》891正
②……我勿巳賓,乍帝降不若。《合集》6497 - 「不[⿱幺才]鼄」:吉凶判断語の一つ。意味はわかっていない。
金文
甲骨文同様、否定詞としての用法が多く見られる。決まり文句の多い金文では「不○」といった成語化した詞も多い。- 副:ず、あらず。否定詞。
①十枻(世)不[⿰𦣠言](忘)。獻簋,《銘圖》05221
②師㝨虔不㒸(墜)。師㝨簋,《銘圖》05366-05367
③叀(唯)王龏(恭)德谷(裕)天,順(訓)我不每(敏)。何尊,《銘圖》11819
④不井(型)不中……毋敢不明不中不井(型)。牧簋,《銘圖》05403 - 助:…か、いなや。疑問語気詞。文末に置かれる。=否
①女(汝)𧵒(賈)田不(否)?五祀衛鼎,《銘圖》02497 - 形:大きい,「不顯」「不𫠭」。=丕
①不(丕)巩(鞏)先王配命。毛公鼎,《銘圖》02518
②不(丕)顯考文王。天亡簋,《銘圖》05303
③對揚天子不(丕)𫠭(丕)魯休。師𡘇父鼎,《銘圖》02476 - 名:人名,「子不」。人名用字,「不壽」「不𡢁」。
- 名:国名。=邳
①不(邳)白(伯)夏子自乍(作)𬯚(尊)罍。邳伯夏子缶,《銘圖》14089-14090 - 「不廷」「不廷方」:朝廷に出ない国。=不庭
①𨨋(鎮)静(靖)不廷。秦公簋,《銘圖》05370
②率褱(懷)不廷方。毛公鼎,《銘圖》02518
楚簡
否定詞と「大いに」の用法がほとんどである。上博四《曹沫之陣》64「𫊟(吾)言氏不。」の解釈は一定しない。上博三《周易・蹇》35「九五:大訐(蹇)不(朋)棶(來)。」、今本は「大蹇朋來」に作り、解釈は一定しない。
- 副:ず、あらず。否定詞。
①不憖。包山《集箸言》15反
②民不從上之命。郭店《成之聞之》2
③曷今東恙(祥)不章(彰)?清華壹《尹至》3 - 形:大きい。大いに。=丕
①《君奭》曰:“唯髟(冒)不(丕)單爯(稱)惪(德)。”郭店《成之聞之》22
②《上博一《孔子詩論》6剌(烈)文》曰:“乍{亡}競隹(維)人,不(丕)㬎(顯)隹(維)惪(德)。”
③遠土不(丕)承。清華壹《皇門》6
釋形
《詩經・小雅・常棣》「常棣之華,鄂不韡韡。」鄭玄箋「承華者曰鄂,不當作柎。柎,鄂足也。古聲不、柎同也。」より、「柎」の初文で、花萼の象形とする説が定説となっている(羅振玉、王国維、郭沫若、徐中舒)。また、「茇」の初文で、根の象形とする説がある(趙誠、于省吾、姚孝遂、陳世輝、何琳儀)。
釋詞
王力は否定詞「不」「否」「弗」を同源詞とする。張建銘、殷寄明などは以下の諸字を同源とする。「不」には否定詞を除くと「大きい」の義があり、今「丕」声字が多くこれをうけつぐ。
- 丕,《説文》一篇上《一部》「大也。」(1上)
- 伾,《説文》八篇上《人部》「有力也。」(160下)
- 魾,《説文》十一篇下《魚部》「大鱯也。」(243下)
- 倍,《集韻》去聲《隊韻》補妹切「加也。」(531)
- 培,《廣韻》平聲《灰韻》薄回切「益也。」(98)
- 陪,《玉篇》卷二十二《阜部》「加也,益也。」(418)
- 剖,《廣韻》上聲《厚韻》普后切「判也,破也。」(327)
- 掊,《莊子・逍遙游》陸德明釋文「掊,司馬云:“擊破也。”」
- 坏,《説文》十三篇下《土部》「丘再成者也。」(290下)
- 肧,《説文》四篇下《肉部》「婦孕一月也。」(81下)
- 芣,《説文》一篇下《艸部》「華盛。」(16上)
0 件のコメント:
コメントを投稿