「史」
釋義
甲骨文
「史」は武官、あるいは使者とする説が広く受容されているが、異説は少なくない。また、名詞{事}、動詞{使}に用いられる。
- 名:職官名。また、使者。
①貞:方其[⿶戈屮](翦)我史。
貞:方弗[⿶戈屮](翦)我史。
貞:我史其[⿶戈屮](翦)方。
貞:我史弗其[⿶戈屮](翦)[方]。《合集》9472正;賓一
②己未卜,古,貞:我三史史(使)人。
貞:我三史不其史(使)人。《合集》822;賓一 - 名:できごと。事象。事情。=事
①癸亥卜,爭,貞:灷𬅶化亡𡆥(憂),由(堪)王史(事)。
貞:灷𬅶化亡𡆥(憂),由(堪)王史(事)。
灷𬅶化其㞢(有)𡆥(憂)。
貞:灷𬅶化亡𡆥(憂),由(堪)王史(事)。十月。
灷𬅶化其㞢(有)𡆥(憂)。《合集》5439正;賓一
②辛卯卜,貞:今四月我又(有)史(事)。《合集》21666;子組 - 名:人名。
①丙寅卜,史,貞:今夕亡𡆥(憂)。《合集》16584;賓三
②壬辰卜,内,貞:今五月史㞢(有)至。
今五月史亡其至。《合集》13579反;賓一 - 動:つかわす。派遣する。出向かせる。=使
①己未卜,古,貞:我三史史(使)人。
貞:我三史不其史(使)人。《合集》822;賓一
②庚申卜,古,貞:王史(使)人于䧅,若。王占曰:吉,若。《合集》376正;賓一
金文
「内史」は内史寮の長官で、主に王に伴う職務を行った。「太史」は太史寮の長官で、儀礼に参加したり、立法・気象観測・卜筮等を行ったとされる。金文では内史・太史等の官僚をまとめて「史」と称し、名前の前につけて「史某」の形で用いられる。- 名:職官名。
①乙亥,王𫌲(誥)畢公,廼易(賜)史𬛥貝十朋。史𬛥簋,《銘圖》04986-04987;周早
②孝𬁡(友)史𤖣(牆),𡖊(夙)夜不彖(惰),其日蔑[⿸𠩵口](懋)。史牆盤,《銘圖》14541;周中
③易(賜)女(汝)史、小臣、霝龠(籥)鼓鐘。大克鼎,《銘圖》02513;周晩 - 名:できごと。事象。事情。=事
①自今余敢夒(擾)乃小大史(事)。𠑇匜,《銘圖》15004;周中 - 名:人名。また、族名。
①史。史鼎,《銘圖》00017-00045;商晩
②𦛛(薛)𥎦(侯)戚乍(作)父乙鼎彝,史。薛侯戚鼎,《銘圖》01865;商晩 - 動:つかえる。=事
①𩛥(載)乃且(祖)考史(事)先王,𤔲(司)虎臣。虎簋蓋,《銘圖》05399-05400;周中 - 動:つかわす。派遣する。出向かせる。=使
①余令(命)女(汝)史(使)小大邦。中甗,《銘圖》03364;周早
②隹(唯)王𠦪于宗周,王姜史(使)叔事(使)于大(太)𠍙(保)。叔簋,《銘圖》05113-05114;周早
③用𬯚(尊)史(使)于天宗,用卿(饗)王逆[⿺辶舟](復),用匓寮(僚)人。作册夨令簋,《銘圖》05352-05353;周早 - 動:しむ。ある対象に何かをさせる。=使
①𨕘從師雍父𫵔史(使)𨕘事(使)于㝬(胡)𥎦(侯)。𨕘甗,《銘圖》03359;周中 - 「内史」「内史尹」:職官名。内史寮の長官。
①隹(唯)三月,王令𬊇(榮)眔内史曰:“[⿱𦵯廾](介)井(邢)𥎦(侯)服。”榮簋,《銘圖》05274;周早
②王各(格)于大(太)室,師毛父即立(位),丼(邢)白(伯)右,内史册命。師毛父簋,《銘圖》05212;周中
③[⿰𠂤⿳日夂土]白(伯)右師兑,入門,立中廷,王乎(呼)内史尹册令(命)師兑。三年師兑簋,《銘圖》05374-05375;周晩 - 「大(太)史」:職官名。太史寮の長官。
①公大(太)史乍(作)姬𬍢寶𬯚(尊)彝。公太史鼎,《銘圖》01824-01826;周早
②隹(唯)十又三月庚寅,王才(在)寒[⿰𠂤朿](次),王令大(太)史兄(貺)䙐土。中鼎,《銘圖》02382;周早
③隹(唯)公大(太)史見服于宗周年。作册䰧卣,《銘圖》13344;周早
楚簡
書籍簡においてはほとんど{使}に用いられる。司法文書である包山簡には102「正史」、138「大史」、158「右史」等の職官名が見られる。- 名:史官。太史。
①是𫊟(吾)亡(無)良祝、史也。𫊟(吾)𢼽(欲)䜴(誅)者(諸)祝、史。上博六《景公瘧》2
②史乃册祝告先王曰。清華壹《金縢》2 - 名:姓。
①九月辛亥之日,彭君司敗史善受[⿱几日](幾)。包山《受幾》54
②辛亥,妾婦監、史[⿱𬐇心](懌)、䣓人秦赤。包山《所属》168
③辛巳,[⿺辶卜]𫾽(令)史[⿸疒𢍏](𤷄)、𦸗尹毛之人、郯[⿰⿺𠃊炎戈](列)尹[⿱⿰炅匕黽]之人。包山《所属》194 - 動:つかえる。=事
①胃(謂)之【臣】,㠯(以)[⿱宀忠](忠)史(事)人多。郭店《六德》17
②奠(鄭)壽告又(有)疾,不史(事)。上博六《平王問鄭壽》4 - 動:つかう。用いる。使用・運用する。=使
①胃(謂)之君,㠯(以)宜(義)史(使)人多。郭店《六德》15
②先﹦(先人)[⿱之所]﹦(之所)史(使)。上博五《季康子問於孔子》12
はたらかせる。使役する。=使
③至亞(惡)何(苛),而上不旹(時)史(使)。上博五《鮑叔牙與隰朋之諫》7 - 動:つかわす。派遣する。出向かせる。=使
①孤史(使)一介史(使)。上博七《吴命》4 - 動:しむ。ある対象に何かをさせる。=使
①民可史(使)道之,而不可史(使)智(知)之。郭店《尊德義》21-22
②亓(其)甬(用)心各異,[⿱爻言](教)史(使)肰(然)也。郭店《性自命出》9
亓(其)甬(用)心各異,[⿱爻子](教)史(使)肰(然)也。上博一《性情論》4
③季𬨤(桓)子史(使)中(仲)弓爲[⿸宰刃](宰)。上博三《仲弓》1
釋形
「中*」と「又」に従い、何かを持った形。「中*」の構意は諸説あり定説はない。「中*」を「中」とみなす説があるが、両字は形が異なっており、また卜辞中の「中*」字の用法は「史」と同じで「中」のそれとは異なる。「中*」と「史」が同用法であることから、「史」は「中*」に「又」を加えた形声文字である可能性もある。甲骨文には四種の字体がある。Aは賓組以外で普遍的に用いられる字体で、後代にもこの字体が継承された。Bは賓組に用いられる字体で、上部が二叉の字。二叉が三叉に変化し、後代の「事」「吏」字になった。Cは刀卜辞に見られる横画を欠いた字体。Dは主に𠂤賓間に用いられる「又」を省略した字体だが、上述のように「史」の初形かもしれない。
西周中晩期の金文の字は中央の縦画の長さに多様性がある。𪠷𫲾簋(《銘圖》04962)の「𪠷」は羨符「口」を加えた異体字と思われるが、別字の可能性もある。
晋系文字は上部の縦画が「十」字のようになっている。楚系文字は「⿳卜甘又」の字体だが、「弁」と極めて近い字形のものもある。
釋詞
上述のように「史」「事」「吏」は一字分化であり、また字義・用例を見ても明らかなように、{史}{使}{事}{吏}は同源詞である。参考・関連文献
字詞典
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論文
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