「才」
釋義
甲骨文
殷墟甲骨文では時間や地名を後に続けて{在}に用いられる。また{災}の用法が数例みられる。- 名:わざわい。良くないこと。災害。=災
①乙卯,貞:今日亡才(災)。《合補》10708;歷二
②辛丑,貞:王其獸(狩),亡才(災)。《屯南》1128;歷二 - 前:~で。~に。ありて。場所・時間・範囲などを示す。=在
①己亥卜,旅,貞:今夕亡𡆥(憂)。才(在)十二月。《合補》8113;出二
②癸牛卜,才(在)盂貞:旬亡[⿰𡆥犬](憂)。王占曰:吉。《合集》36914;黄二
③[甲]午卜,大[,貞]:翌乙未其登,其才(在)祖乙〼《合集》22926;出二
金文
金文では「人名+才(在)+地名・位置」の用法が圧倒的に多い。- 名:貨幣[1]。あるいは財貨。=財
①乙未,公大(太)保買大[⿰王⿳丅口丄](珠)于𦍎亞,才(財)五十朋。亢鼎,《銘圖》02420;周早
②矩白(伯)庶人取堇(瑾)章(璋)于裘衛,才(財)八十朋,氒(厥)賈,其舍田十田。裘衛盉,《銘圖》14800;周中 - 名:姓。
①才父戊。才父戊爵,《銘圖》07845;商晩 - 動:ある。あり。場所・時間・範囲などを示す。=在
①己酉,王才(在)梌,𠨘其易(賜)貝。四祀𠨘其卣,《銘圖》12429;商晩
②才(在)亖(四)月丙戌,王𫌲(誥)宗小子于京室。何尊,《銘圖》11819;周早
③唯五月既死覇,辰才(在)壬戌,王[⿱宛食][于(?)]大(太)室。吕鼎,《銘圖》02400;周中
④隹(惟)九月,王才(在)宗周,令盂。大盂鼎,《銘圖》02514;周晩 - 副:はじめは。最初は。昔は。=載、在、哉
①才(載)先王既令(命)女(汝)乍(作)𤔲(司)土。師𬱊簋,《銘圖》05364;周晩 - 前:~で。~に。ありて。場所・時間・範囲などを示す。=在
①王易(賜)小臣𪺕(系),易(賜)才(在)𡨦(寢)。小臣系卣,《銘圖》13284-13285;商晩
②唯成王大𠦪(祓)才(在)宗周,商(賞)獻𥎦(侯)𬱑貝。獻侯鼎,《銘圖》02181-02182;周早
③隹(唯)八月辰才(在)庚申,王大射才(在)周。柞伯簋,《銘圖》05301;周中
④㝬其萬年,永㽙(畯)尹亖(四)方,保大令(命),作疐才(在)下,[⿰午卩](御)大福。五祀㝬鐘,《銘圖》15583;周晩 - 助:かな。句末に置いて感嘆を表す。=哉
①唯民亡𫹔(延)才(哉)!彝𫹻(昧)天令(命),故亡。允才(哉)!顯隹(唯)苟(敬)德,亡𠧠(攸)違。班簋,《銘圖》05401;周中
②師訇,哀才(哉)!今日天疾畏(威)降喪,首德不克[⿱聿乂](規)。師訇簋,《銘圖》05402;周晩
楚簡
楚簡では{在}のほか、語気詞{哉}としての用法も多い。- 名:才能。はたらき。=材
①而[⿱宀⿰帚戈](寢)亓(其)兵,而官亓(其)才(材)。上博二《容成氏》2 - 名:わざわい。災禍。=災
①[⿱化示](禍)才(災)迲(去)亡。上博二《容成氏》16 - 動:ある。あり。場所・時間・範囲などを示す。=在
①亓(其)才(在)民上也,民弗厚也;亓(其)才(在)民前也,民弗𡩜(害)也。郭店《老子》甲4
②庚之子𭧏一夫、𭧏之子疕一夫,未才(在)典。包山《集箸》8
③君子才(在)民之上。上博五《季庚子問於孔子》2
④[⿱七䖵](蟋)[⿱⿴行⿱幺止虫](蟀)才(在)[⿱竹石](席),𫻴(歲)矞員(云)茖(莫)。清華壹《耆夜》11 - 動:みる。視察する。=在
①士帀(師)𬪌(陽)慶吉啓漾陵之厽(三)鉩(璽)而才(在)之。包山《集箸》13 - 動:そこなう。害する。陥れる。=讒[2]
①所㠯(以)異於父,君臣不相才(讒)也,則可已。郭店《語叢三》3 - 副:ますます。さらに。=兹
①余既監于殷之不若,[⿴囗帀](稚)童才(兹)𢝊(憂)。清華伍《封許之命》8 - 前:~で。~に。ありて。場所・範囲などを示す。=在
①是古(故)凡勿(物)才(在)疾之。郭店《成之聞之》22
②取皮(彼)才(在)坹(穴)。上博三《周易・小過》56
③才(在)少(小)不靜(爭),才(在)大不𫬽(亂)。上博四《内禮》10 - 助:かな。句末に置いて感嘆を表す。=哉
①𢚝(噫),善才(哉),言[⿸虎口](乎)!郭店《魯穆公問子思》4
②休才(哉)!上博三《彭祖》1
③於(嗚)[⿸虎口](乎),丁,戒才(哉)!清華伍《封許之命》7 - 助:か。や。句末に置いて疑問を表す。また「安」等と呼応して反語を表す。=哉
①察丌(其)見者,青(情)安[⿺辶⿱止㚔](失)才(哉)?郭店《性自命出》38
②公身爲亡(無)道,不[⿺辶戔](遷)於善而敚(説)之,可[⿱虎口](乎)才(哉)?上博五《競建内之》6
③今天下之君子既可智(知)已,䈞(孰)能并兼人才(哉)?上博四《曹沫之陣》5
④又(有)[⿹暊虫](夏)之悳(德)可(何)若才(哉)?清華伍《湯處於湯丘》12 - 助:よ。句末に置いて命令・奨励を表す。=哉
①於(嗚)[⿸虎口](乎),敬才(哉)。清華壹《程寤》6
②欽才(哉)!清華壹《保訓》4
③[⿰苟戈](敬)才(哉),監于茲。清華壹《皇門》12
釋形
杙の象形で、「弋(杙)」から分化した字(何琳儀[3]・陳劍[4])。初期の甲骨文では短い縦画と下三角形からなる字形が多い。甲骨文で最も多く見られる字形は下三角形を長い縦画が貫いた形であるが、これは訛形であり、これに基づいて構意を説明するのは誤りである。漢篆の例が少なく、説文小篆は隷書由来の字形であり秦篆とは異なる。
釋詞
陳劍は「弋(杙)」と「才」を一字分化とするが、詞義については触れていない。「材」「財」は「才質、才智」といった意味を持ち、同源である。
参考・関連文献
文中出典
[1]周宝宏《西周金文词义研究(六则)》四,中国古文字研究会等编《古文字研究》第二十五辑第112-113页,中华书局2004年。[2]白于蓝《郭店楚简补释》八,《江汉考古》2001年第2期第58页。 [3]《戰國古文字典》第69頁。
[4]陳劍《釋造》注釋,《甲骨金文考釋論集》第141頁,線裝書局2007年。
字詞典
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張世超等《金文形義通解》第1494-1497頁,中文出版社1996年。
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文字編
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