「乃」
釋義
甲骨文
二人称代詞として用いられるが、主語や目的語にはならず、連体修飾(領格・属格)として用いられる。また「迺」と同様に接続詞的な副詞として前後の句をつなぐ用法もある。- 代:なんじの。あなたの。
①戊戌卜,㱿,貞。王曰:𥎦豹逸,余不爾其合,㠯乃史(使)歸。《合集》3297正;典賓
②庚辰卜:于卜乃土。《合集》34189;歷組 - 副:すなわち。そして。そこで。=迺
①[辛]亥貞:王令○㠯子方,乃奠于并。《合集》32833;歷二
②翌日庚其𣏮,乃雩,𠨘至來庚亡大雨。《合集》31199;無一
金文
甲骨文同様に連体修飾の二人称代詞として用いられる。西周中晩期には「乃」を主語として用いる例や、指示代詞としての用法が数例見られる。接続用法では「迺」と同一視されることが多いが、その語法には若干の違いがある。
- 代:なんじの。あなたの。祖先を修飾する用法が多い。
①𬲏(載)先王既令(命)乃𫨶(祖)考事。師虎簋,《銘圖》05371;周中
②㠯(以)乃𠂤(師)右比毛父。班簋,《銘圖》05401;周中
③勿灋(廢)朕命,母(毋)㒸(墜)乃政。逆鐘,《銘圖》15193;周晩 - 代:なんじ。あなた。
①乃任縣白(伯)室。縣妀簋,《銘圖》05314;周中
②乃毌政事,母(毋)敢不尹人不中不井(型)。牧簋,《銘圖》05403;周中
③乃可(苛)湛(勘)。女(汝)敢㠯(以)乃師訟。𠑇匜,《銘圖》15004;周中 - 代:この。その。「申就乃命」の用法が多い。
①今余隹(唯)𤕌(申)𫢁(就)乃命。牧簋,《銘圖》05403;周中
②𩁹乃𡀚(訊)庶右粦(鄰),母(毋)敢不明不中不井(型)。牧簋,《銘圖》05403;周中
③求乃人,乃弗得,女(汝)匡罰大。曶鼎,《銘圖》02515;周中 - 副:すなわち。そして。そこで。
接:すなわち。そして。そこで。
①履付裘衛林𡥨里,則乃成夆(封)亖(四)夆(封)。九年衛鼎,《銘圖》02496;周中
②噩(鄂)𥎦(侯)馭方內(納)壺于王,乃祼之。鄂侯馭方鼎,《銘圖》02464;周晩
③用昭乃穆穆不(丕)顯龍(寵)光,乃用𣄨(祈)匃多福。遟父鐘,《銘圖》15297;周晩 - 副:すなわち。そうしてはじめて。そこでやっと。
①[必]會王符,乃敢行之。新郪虎符,《銘圖》19176;戰晩 - 接:もし。仮に~ならば。
①令眔(暨)奮,乃克至,余𠀠(其)舍(捨)女(汝)臣十家。令鼎,《銘圖》02451;周早
②求乃人,乃弗得,女(汝)匡罰大。曶鼎,《銘圖》02515;周中 - 人名用字。
①乃𪺡子乍(作)氒(厥)文考寶𬯚(尊)彝。乃𪺡子鼎,《銘圖》02044;周早
②𫨸(矧)辛白(伯)蔑乃子克𤯍(懋)。乃子克鼎,《銘圖》02322;周早
楚簡
- 代:なんじの。あなたの。
①《康[⿱言廾](誥)》員(云):“敬明乃罰。”郭店《緇衣》29
②《康[⿱言廾](誥)》員(云):“敬明乃罰。”上博一《緇衣》15
③愻(遜)惜(措)乃心,𦘔(盡)𡧛(付)畀余一人。清華壹《祭公之顧命》8 - 代:なんじ。あなた。
①休才(哉),乃𨟻(將)多昏(問)因由,乃不[⿺辶⿱止㚔](失)厇(度)。上博三《彭祖》1 - 副:すなわち。まさに。~である。
①攸(修)之身,丌(其)惪(德)乃貞。郭店《老子乙》16
②攸(修)之向(鄉),其惪(德)乃長。攸(修)之邦,其惪(德)乃奉(豐)。郭店《老子乙》17 - 副:すなわち。そして。そこで。
①咎(皋)𡍒(陶)既已受命,乃𠓥(辨)侌(陰)昜(陽)之[⿱既火](氣)。上博二《容成氏》29
②參(三)[⿰土丯](郤)既亡,公家乃溺(弱),鑾(欒)箸(書)弋(弒)[⿰⿻木𦥑攵](厲)公。上博五《姑成家父》10
③立丗〓(三十)又九年,戎乃大敗周𠂤(師)于千[⿱母田](畝)。清華貳《繋年》第一章4
④欲亓(其)子奚𬁼(齊)之爲君也,乃[⿰言⿱虫虫](讒)大(太)子龍(共)君而殺之。清華貳《繋年》第六章31 - 副:すなわち。すでに。過去や完了を表す。
①[⿱允𪢾](舜)乃老,視不明,聖(聽)不[⿰耳兇](聰)。上博二《容成氏》17
釋形
極めて単純な形で、字義も仮借と考えられるため、解釈は難しい。形は「弓」にも似ている。「繩」の初文で縄の象形(朱芳圃、何琳儀)、「奶」の初文で女性の乳の象形(郭沬若、徐中舒)の二説が代表的であるが、いずれも根拠に乏しい。ここでは、物を引く形で「扔」の初文ではないか、という可能性も提示しておく。
説文籀文の「𠄕」は先秦に用例がなく、誤りと考えられる。
釋詞
「乃」のほか二人称代詞に用いられる「女(汝)」「爾」「而」などはいずれも近音で同源詞と思われる。参考・関連文献
工具書
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論文
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