2017/06/01

字典「負」

「負」

釋義

金文

金文の「負」字は戦国晩期の兵器に一例あるのみである。
  1. 「負陽」:地名。
    十二年,負陽命(令)□雩,工帀(師)樂休,冶□。
    負陽令戈,《銘圖》17199;戰晩
また負黍令韓譙戈(《銘圖》17178-17180)は地名「負黍」を「[⿱付臣]余」とする。

楚簡

楚簡に「負」字は用いられていない。
上博三《周易・睽》33「見豕[⿱伓貝](負)𡌆(塗)」、同《周易・解》37「[⿱伓貝](負)𠭯(且)𨍱(乘)。」、今本《周易》が「負」とするところを上博簡は「⿱伓貝」に作る。

秦簡

法律文書では「負う」「償う」の用例が多く見られる。
  1. 動:おう。背負う。背中に物を載せる。
    吏自佐、史以上從馬、守書私卒,令市取錢焉,皆䙴(遷)。
    睡虎地《秦律雜抄》11

    一人米十斗,一人粟十斗,食十斗。
    嶽麓貳《數・衰分類算題》137
  2. 動:おう。責任、債務をもつ。
    作務及賈而責(債)者,不得代。
    睡虎地《秦律十八種・司空》136

    夫妻相反者,妻若夫必有死者。
    嶽麓壹《占夢書》9貳
  3. 動:つぐなう。賠償する。
    其不備,出者之;其贏者,入之。
    睡虎地《秦律十八種・倉律》23

    羣它物當賞(償)而僞出之以彼賞(償)。
    睡虎地《秦律十八種・效》174
  4. 名:つま。=婦
    驚多問新負(婦)、妴得毋恙也?
    睡虎地11號木牘反Ⅵ

    驚多問新負(婦)、妴皆得毋恙也?
    睡虎地6號木牘正Ⅴ
  5. 名:えびら。矢筒。=箙
    卒百人,戟十、弩五、三,問得各幾可(何)?
    嶽麓貳《數・衰分類算題》132

    述(術)曰:同戟、弩、數,以爲法。
    嶽麓貳《數・衰分類算題》133

釋形

「人」と「貝」に従う。戦国晩期以前には見られない。「府」の戦国時代に見られる異体字には「𢊾」「⿱付貝」「⿸广負」等があり、「負」は「⿱付貝(府)」から分化した字と思われる(黄德寬)。
南北朝~唐代には説文小篆を楷書化したものとして上部を「刀」とした字体が用いられたが、《五經文字》には「負」が採用された。

釋詞

「負」「背」「倍」は音義とも近く通仮例があり、同源である。
  • 《釋名・釋姿容》「負,背也,置項背也。
  • 《史記・酈生陸賈列傳》「項王負約不與。」,《漢書・酈陸朱劉叔孫傳》「項王背約不與。
  • 《釋名・釋形體》「背,倍也,在後稱也。
  • 馬王堆《老子》甲本《道篇》126「民利百負。」、同乙本233下「民利百倍。
否定の意志→「そむく」→「負う」という語義展開が考えられる。

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