「甾」
釋義
甲骨文
殷墟甲骨文における「甾」とされている字は黄組に数例見えるのみである。
- 名:人名用字。
①〼妥余一人□,余其比田甾正□□盂方〼《合補》11242;黄二
②〼,余其比發甾戔,亡又〼《合集》36347;黄二
③〼發甾戔亡〼《合集》36348;黄二
金文
金文における「甾」とされている字は二例のみである。
- 名:人名。
①甾乍(作)父己寶𬯚(尊)彝,南宫。甾觶,《銘圖》10646;周中 - 名:器の一種。=鼒
①子䧅□之孫〼行甾(鼒)。子䧅□之孫鼎,《銘圖》01744;春秋
秦簡
秦簡における「甾」とされている字は二例のみである。
- 名:人名。
①甾等非故縱弗論殹,它如劾。里耶秦簡8-1107
②今甾等當贖耐,是即敬等縱弗論殹。里耶秦簡8-1133
釋形
「甾」字の用例は少ない。字形は「其」に似ており、《六書故》卷二十九「𠙹,竹器也。」とある通り竹製の器物の一種の象形と考えられる(季旭昇)。《説文》十二篇下《甾部》「東楚名缶曰𠙹。」(269上)や子䧅□之孫鼎における用法などは引伸義である。字書類では説文小篆を楷書化した「𠙹」の字体が主に用いられる。また《説文》では「菑」字の古文として「甾」が掲載されており、後代の字書類もこれに従っている。
古くはA・Bがその字形から「甾」かつ「西」であり、両字は同源分化字と考えられていた(李孝定[1]等)。ただし、形が似ていること以外にA・Bを同一視する根拠はない。また于省吾[2]はB・Cを「甾」としたが、陳剣[3]によってCは「由」であると修正された。蘇建洲[4]は「甾」に従う字との字形比較からBを「甾」とした。したがって現在はA=「西」、B=「甾」、C=「由」とするのが通説である。
釋詞
「甾」声字は「黒色」「死」義を共有し、おそらく{災}と同源である。
- 菑,《詩・大雅・皇矣》「作之屏之,其菑其翳。」 毛傳「木立死曰菑。」,《詩・小雅・采芑》「薄言采芑,于彼新田,于此菑畝。」孔穎達疏「菑者,災也。」
- 淄,《史記・夏本紀》「堣夷既略,濰、淄其道。」張守節正義引《括地志》「俗傳云:禹理水功畢,土石黑,數里之中波若漆,故謂之淄水也。」
- 椔,《爾雅・釋木》「立死,椔。」,《廣韻》平聲《之韻》側持切「木立死。」(62)
- 䅔,《玉篇》卷十五《禾部》「禾死也。」(290)
- 緇,《説文》十三篇《糸部》「帛黑色也。」(275上)
- 輜,《釋名・釋車》「輜車,載輜重、臥息其中之車也。」,《集韻》平聲《之韻》莊持切引《字林》「載衣物車,前後皆蔽,若今庫車。」(51)
- 鯔,《本草綱目・鱗之三》「時珍曰:鯔,色緇黑,故名。」
参考・関連文献
文中出典
[1]李孝定編述《甲骨文字集釋》第十二卷第3507-3508、3840-3841頁,中央研究院歷史語言研究所1965年。
[2]于省吾《釋甾》,《甲骨文字釋林》第69-71頁,中華書局1979年。
[3]陳劍《釋“ꁁ”》,劉釗主編《出土文獻與古文字研究》第三輯第1-89頁,復旦大學出版社2010年。
[4]蘇建洲《〈楚居〉簡9「⿱⿳卜日八土」字及相關諸字考釋》,《楚文字論集》第321-342頁,萬卷樓圖書股份有限公司2011年。
[2]于省吾《釋甾》,《甲骨文字釋林》第69-71頁,中華書局1979年。
[3]陳劍《釋“ꁁ”》,劉釗主編《出土文獻與古文字研究》第三輯第1-89頁,復旦大學出版社2010年。
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工具書
徐中舒主编《甲骨文字典》第1395頁,四川辞书出版社1989年。
马如森《殷墟甲骨文实用字典》第290頁,上海大学出版社2008年。
落合淳思《甲骨文辞典》第318頁,朋友書店2016年。
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方述鑫等《甲骨金文字典》第985頁,巴蜀书社1993年。
張世超等《金文形義通解》第3024頁,中文出版社1996年。
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李学勤主编《字源》第1120頁,天津古籍出版社2012年。
季旭昇《説文新證》第877頁,藝文印書館2014年。
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文字編
李宗焜《甲骨文字編》第382頁,中華書局2012年。
劉釗主編《新甲骨文編》(增訂本)第736頁,福建人民出版社2014年。
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董蓮池主編《新金文編》第1768頁,作家出版社2011年。
吴良寶編纂《先秦貨幣文字編》第189頁,福建人民出版社2006年。
佐野光一編《木簡字典》第465頁,雄山閣出版1985年。
陳松長編著《馬王堆簡帛文字編》第577頁,文物出版社2001年。
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